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記事
収縮性を高めれば患者は良くなるのか――拍出・仕事量・転帰
強心作用のある治療で心拍出量(CO)が増え、EFも上がった。患者は良くなると期待してよいだろうか。心不全治療の臨床試験は、この期待が外れうることを繰り返し示してきた。本稿では、収縮性を変える介入を三つの段階で評価する。どれだけ送り出したか(拍出量)、どの圧に向かってどれだけの仕事をしたか(圧と仕事量)、そして患者に何が起きたか(症状、入院、死亡)である。前の二つはモデルで機序として関係づけられるが、三つ目には症状や転帰を測った臨床研究による検証が必要である。
右室の収縮性をどう切り分けるか――肺循環との釣り合いと左室への波及
肺高血圧の患者で右室が拡大し、右室EFが下がっている。原因は肺血管の負荷が大きいことなのか、右室の心筋そのものが弱いことなのか。そして右室が弱ると、左室はどう影響を受けるのか。左室について積み上げてきた枠組みは、右室にどこまで使えるだろうか。
収縮性を上げると、流量が増えるのか、充満圧が下がるのか――閉じた循環の作動点
低心拍出の患者に強心薬を始めたとき、心拍出量が期待ほど増えず、肺動脈楔入圧の低下の方が目立ったとしたら、薬は効いていないのだろうか。教科書のPVループでは、拡張末期容積を固定したまま収縮性を上げるとESVが減り、一回拍出量が増える。ところが体の中では拡張末期容積は固定されていない。収縮性を上げた心臓が行き着く先は、一回拍出量が増えた状態なのか、充満圧が下がった状態なのか。
MRを減らしたらEFが下がるのはなぜか
僧帽弁逆流(MR)を経カテーテル修復などで減らしたあと、EFが下がることがある。心筋が弱ったと考えるべきだろうか。EFは左室から出た血液の割合を表すが、その行き先は区別しない。MRの左室には大動脈と左房という二つの出口があり、左房へ戻った血液もEFの分子に入っている。そのため逆流口が閉じると、心筋の条件が同じでも総EFは下がり、同時に大動脈への前方拍出は増えうる。
弛緩指標は、心筋だけを測っているのか
左室圧が速く下がるようになり、等容弛緩時間IVRTも短くなった。心筋の弛緩が改善したと考えてよいだろうか。圧下降の速さ、IVRT、僧帽弁流入のE/Aや減速時間は、力が消える速さだけでなく、左室圧がどの高さから下がり始めるか、弁の向こうにどの左房圧があるか、流入を受け止める両心腔がどれだけ広がるかにも左右される。この回では、心筋側の設定を変えずに総血液量だけを変え、これらの指標が負荷によってどう動くかを確かめる。
狭い弁の圧較差は何を映すか――流量・心筋・後負荷の三者
弁口面積は重症の大動脈弁狭窄(AS)に相当するのに、平均圧較差は低い。EFも低い。弁が見かけほど狭くないのか、心筋が弱くて十分な流れを作れないのか。そしてこのような患者に血管拡張薬を使うと、血圧が下がるだけなのか、拍出が増えるのか。
拡張能と弛緩|記事と実験のガイド
充満圧が高いとき、何が起きているのか。治療後に圧が下がったとき、何が変わったのか。「拡張能」という一語には、心筋が力を抜く速さ、力が抜けた後の心室の広がりやすさ、血液が入ってくる条件、心室を外から押す圧、全身での血液の配分が重なっている。この連載では、モデルで操作できる条件を変える実験と、臨床研究や原著のデータを並べて読み、圧の変化をもう一度生理の言葉へ戻していく。
収縮性を変えると、循環はどう変わるか――PVループ・ESPVR・Starling・Guyton
心臓から多くの血液が出たとき、その理由は一つとは限らない。心筋の収縮性が高まった場合も、心室の充満が増えた場合も、駆出に抗する負荷が軽くなった場合もある。この違いは、PVループの幅だけでは判別できない。
強く縮ませることの代価――一拍仕事・酸素消費・臨床試験
低心拍出の患者に強心薬を使うのは、心拍出量を増やし充満圧を下げることを期待するからである。それでも、長期に使った経口の強心薬が死亡を増やした時代があった。逆に、心筋の収縮を弱める薬が症状を改善する病態もある。収縮性を上げることは、何を得て、何を支払うことなのか。
速く打つ心臓は、強く打つ心臓か――心拍数・充満・収縮性
運動や発熱で心拍数が上がると心拍出量が増える。ペースメーカーの設定を上げれば、低心拍出を改善できるように思える。一方で、HFpEFでは心拍数を上げても拍出が思うように増えないことが、侵襲的な研究で示されている。心拍数を上げることは、心臓を「強く」することなのか。
弁は圧の差を流れに変える――圧較差・流量・弁口面積
大動脈弁狭窄(AS)の重症度は、弁をはさむ平均圧較差(40 mmHg以上)、ジェットの最大流速(4 m/s以上)、弁口面積(1.0 cm²未満)を組にして判断する。ところが、面積からは重症なのに圧較差が小さい例は珍しくない。Hachichaらは、EFが保たれ、体表面積あたりの弁口面積から重症とされた512例のうち、35%で一回拍出量係数が35 mL/m²以下と低く、平均圧較差も低かった(32対40 mmHg)ことを報告した[@a2
大きなv波は、強いMRを意味するか――左房の受け入れと押し出し
僧帽弁逆流(MR)を減らしたのに、左房のv波が高いまま残る。反対に、大きなMRがあってもv波が目立たない患者もいる。左房の圧波形は、流れ込んだ血液の量だけで決まるのだろうか。本稿では、左房圧の波の高さが、左房の容積の増え方、左房の受け入れやすさ、心房自身の収縮、そして左室・肺静脈との流れの組合せで決まることを、二つのモデル実験でたどる。読み終えたときに、同じ逆流量でも左房圧が違いうる理由と、心房の押し出しを強めても前方への充満が同じだけ増えるとは限らない理由を説明できるように
低血圧を逆に読む――同じ血圧の低下を、心臓・血管・血液量に分けて見分ける
平均血圧が70 mmHg台に下がった患者が4人いる。血圧だけを見れば同じだが、原因が違えば、次にすべきことも違う。欧州集中治療医学会のコンセンサスは、ショックを、流量が低い三つの型(循環血液量減少性・心原性・閉塞性)と、流量が保たれやすい血液分布異常性の、四つのパターンで考えるとし、原因が重なることも多いと述べている。診察で型がはっきりしなければ追加の評価を行い、まず心エコーを、複雑な例では肺動脈カテーテルなども用いることを提案している。
僧帽弁を広げると、左房圧と左室の圧はどう変わるか
僧帽弁狭窄を経皮的に解除すると、平均左房圧は下がったのに、左室拡張末期圧(LVEDP)は上がった。どちらも「充満圧」と呼ばれるので、同じ患者で充満圧が改善し、同時に悪化したように見える。しかし二つの値は、測っている心腔も、心周期の時点も違う。本稿の問いは、弁口が広がったとき左房と左室の圧がそれぞれどちらへ動くのか、そしてLVEDPの上昇は左室が硬くなった証拠なのか、である。読み終えたときに、平均左房圧とLVEDPが別々に動く理由、同じ受動圧–容積関係の上でも拡張末期の圧が上が
「拡張能が悪い」とは、何が悪いのか
息切れのある患者で左室拡張末期圧LVEDPが高く、治療後に下がった。これを「拡張能が改善した」とまとめてよいだろうか。心筋が速く力を抜けるようになったのか、心室が広がりやすくなったのか、それとも入っている血液量や、心室を外から押す圧が変わったのか。同じ圧の低下でも、どれが起きたかによって診療へ持ち帰る意味は異なる。
充満圧は前負荷か――Frank–Starling曲線を2つの軸で読む
中心静脈圧(CVP)や肺動脈楔入圧は、長く心室の前負荷の目安として使われてきた。Kumarらは、健康な志願者に3 Lの生理食塩水を3時間かけて投与し、楔入圧やCVPが、心室の拡張末期容積の指数とも、一回拍出量の指数とも相関しないこと、輸液による変化どうしも相関しないことを示した。一方、拡張末期容積の指数は一回拍出量の指数と相関していた。敗血症の患者でも、輸液前のCVPや楔入圧で輸液への反応を予測する力は低かった(ROC曲線下面積はいずれも0.6前後と
心拍数が増えれば心拍出量も増えるのか――収縮予備能と充満
心拍数が増え、一回拍出量SVが保たれれば、心拍出量COも増える。しかしSVは心拍数とともに変わるので、拍数だけからCOの変化は決められない。本稿では、収縮期の指標が上がってもSVが保たれなかった臨床研究から出発し、心拍数と心筋張力の設定を別々に変えて、拍数の利点がどこで相殺されるかを見る。
「心室が硬い」とは、どの曲線の傾きか
LVEDPが上がった。心室が硬くなったのだろうか。同じ心室に、より多くの血液が入っただけでも圧は上がる。圧が高いことと、心室の性質が変わったことを区別するには、圧の一点を容積と組にして、圧容積関係の曲線の上に置き直す必要がある。
拡張時間のために、心拍数は低いほどよいのか
拡張期が長ければ、左室はゆっくり弛緩し、十分に血液を受け入れられる。だとすれば、拡張機能が悪い患者ほど心拍数は低い方がよいのだろうか。一拍に使える時間だけを考えると自然な推論だが、循環が必要とするのは一分あたりの流量である。本稿では、一回拍出量(SV)、充満圧、心房と心室の時間関係を同時に追い、心拍数を上げると左房圧がかえって下がる場合があることを、臨床研究とモデル実験で確かめる。読み終えたときに、心拍数を変えたとき心拍出量と左房圧がどう動くかを、一回量、充満の終わりの容積、
二つの心臓を直列につなぐ――右房圧と左房圧が別々に動く理由
頸静脈の怒張や中心静脈圧(CVP)は、右心側の充満圧の目安である。臨床では、それを手がかりに左心側の充満圧、つまり肺うっ血の程度まで推し量ることが多い。Draznerらは、心移植の評価を受けた進行した慢性心不全1000例で、右房圧と楔入圧の相関係数が0.64であり、右房圧が10 mmHg以上なら楔入圧22 mmHg以上を88%の陽性的中率で示すことを報告した。一方、約2割の例では両者が食い違っていた。別の施設で、進行した心不全のため心移植の評価中
一拍を読む――圧・容積・流量は、同じ一拍のどこを示すか
カテーテル検査で記録する左室圧と大動脈圧、心エコーで見る僧帽弁の流入、画像で測る左室の容積。臨床ではこれらを別々の検査で、別々の時刻に測る。けれども、どれも同じ一拍の一部を切り取ったものである。値が食い違って見えるとき、まず確かめるのは、それが一拍の中の「いつ」の「どこ」の値かということだ。
僧帽弁逆流を治すとEFが下がるのはなぜか――総拍出と前方拍出を分ける
重症の僧帽弁逆流(MR)に経カテーテル的修復(TEER)を行った翌日、心エコーのEFが術前より下がっていた。心筋が手技で傷んだのか、もともと弱っていた心筋が露わになったのか、あるいはそのどちらでもないのか。MRの評価でEFが「保たれている」ことは何を保証しているのか。
静脈還流と循環平衡――心拍出量は心臓と血管の交点で決まる
Guytonの静脈還流曲線では、右房圧が上がるほど心臓へ戻る血液は減る。ところが、輸液をすると右房圧が上がり、心拍出量も増えることが多い。右房圧が還流を妨げるのなら、なぜ両方が一緒に上がるのだろうか。右房圧を還流の「背圧」とみなす解釈は、原因と結果を取り違えさせやすく、生理学者や臨床医を長く混乱させてきたと指摘されている。
収縮性を高めれば心拍出量は増えるのか――静脈還流と左右心
左室の収縮性を高めれば、心拍出量(CO)は増えるのか。前負荷と後負荷を固定した単離心室なら、答えはほぼ「増える」である。しかし閉じた循環では、心臓が送り出す量と心臓へ戻る量が一致しなければならず、充満圧も結果として動く。本稿のモデル比較では、左室の張力を上げてもCOの増加は数%にとどまり、より目立ったのは左房圧と左室容積の低下だった。その大きさは総血液量によって異なった。さらに、左室の設定を変えなくても、右室側の条件だけで左室の充満と拍出は変わった。
EFが上がれば収縮性も上がったのか――筋節からPVへ
治療後にEFが上がった。心筋が以前より強く収縮するようになったと考えてよいだろうか。結論から言えば、EFだけでは判断できない。EFは一拍の駆出量を拡張末期容積で割った値であり、心筋の収縮状態に加えて、心室がどれだけ満たされたか、どれだけの圧に向かって駆出したかを同時に反映するからである。
心室を2本の曲線で表す――ESPVRとEDPVR
「EFが下がったので収縮が悪くなった」「LVEDPが高いので心室が硬い」。一拍の数値から心室の性質を読むのは、臨床ではよくあることだ。しかし、一拍の数値は心室の性質だけでなく、そのときの充満(前負荷)と、送り出す先の負荷(後負荷)でも変わる。Kassらは、摘出したイヌの心室で前負荷と後負荷を別々に制御して変え、EF(後負荷で大きく低下)や最大dP/dt(前負荷に比例して増加)など多くの指標が負荷で変わることを示した。収縮末期圧–容積関係(ESPVR)は、強心刺激への反応はむし
心筋が「強い」とは何が大きいことか――Ca・筋節・壁から心室圧へ
「この患者は収縮性が落ちている」と言うとき、根拠になっているのはたいていEFの低さ、壁運動の悪さ、あるいは低い心拍出量である。しかしEFは心室容積が変化した割合、心拍出量は1分間の流量であり、どちらも心筋そのものの性質ではない。同じ心筋でも、血圧が高ければEFは下がり、血液量が少なければ心拍出量は下がる。
HFpEF:肺動脈圧だけで右室は読めるか
右心カテーテル検査で、平均肺動脈圧(mPAP)が前回より低かったとする。肺循環の負荷が軽くなり、右室が楽になったと読んでよいだろうか。mPAPは、右室が血液を送り出す先の圧である。同時に、右室が血液を送り出した結果として生じる圧でもある。そのため、同じ低下が負荷の軽減を表すこともあれば、右室が十分な血液を送れなくなったことを表すこともあり得る。
充満圧が下がったのは、心筋がよくなったからか
治療の後に左房圧やPCWPが下がった。肺循環にかかる圧の負担が減ったことは確かである。では、その低下は心筋の弛緩や受動特性がよくなった証拠になるだろうか。同じ圧は、血液の量、血液が血管のどこにどのような状態で収まっているか、静脈側の性質によっても変わる。
動脈は心臓に何を課すか――抵抗・コンプライアンス・Ea
血圧は、臨床で最も多く測られる血行動態の数値である。後負荷の目安として、平均血圧や体血管抵抗を使うことも多い。では、平均血圧が同じなら、左室が受ける負荷も同じだろうか。Kellyらは、10人で左室の圧–容積と大動脈の圧・流量を同時に測り、収縮末期圧を一回拍出量で割った実効動脈エラスタンスEaが、大動脈の入力インピーダンスとコンプライアンスから三要素Windkesselで求めた負荷の指標とよく一致すること、高齢の高血圧例(6人)では平均の抵抗から求めた値を最大25%上回ることを
同じEF、違う心臓――収縮末期の圧と容積で収縮性を読む
EF 45%の心不全患者に血管拡張薬を使い、翌日のEFが53%になった。別の患者は高血圧があり、EFは53%である。前者の心筋は良くなったのか。後者の心筋は前者と同じくらい強いのか。EFだけを見ていると、この二つの問いに答える手がかりはない。(二人は、この回の後半で扱うモデル比較の数値に対応させた架空の例である。)
心膜の拘束を強めると、左室の圧は上がるのか
左室拡張末期圧LVEDPが高い。心筋が硬く、血液を受け入れにくいのだろうか。心室の内側の圧だけを見ていると、もう一つの可能性が抜け落ちる。心室を外側から押す圧が高ければ、心筋の性質が同じでも、高い内圧が記録され得る。では、心膜の拘束を強めれば、左室の圧はその分だけ上がるのだろうか。
狭い弁の先の血管負荷は拍出を変えるか――ASと低収縮性
大動脈弁狭窄症(AS)では、狭い弁が左室の出口を制限する。では弁が同じなら拍出量も決まってしまい、その先の血管負荷を下げても意味はないのだろうか。そうではない。駆出中の左室圧は大動脈圧と弁の圧較差の和なので、大動脈側の圧が下がれば拍出は増えうる。そして流量が増えれば、同じ弁でも圧較差は上がる。本記事では、左室から見た後負荷を弁の負荷と血管の負荷に分け、心筋の張力が低い心室でこの区別がとくに重要になる理由を考える。
Guytonの循環平衡――心臓と血管が流量を決める
安定した閉ループ循環では、心臓が送り出す平均流量と、心臓へ戻る平均流量が一致する。片方が上回り続ければ、その間に血液がたまり続けるからだ。
後負荷を、抵抗・圧波形・Eaで捉える
血管抵抗を下げると、左室は血液を送り出しやすくなる。その変化は、PV loopの収縮末期点が左へ動くことから読める。さらに時間がたつと、心臓へ戻る血液と拡張末期容積も変わる。後負荷への応答を理解するには、この「送り出しやすさ」と「循環が落ち着くまでの変化」をつなげて考える。
充満圧を、容積・硬さ・弛緩・外圧から読む
左室充満圧は、血液を受け入れるときに必要となる圧を表す。左房から左室へ流れる血液は、拡張期の圧較差に沿って移動する。左室が硬くなると、同じ容積まで満たすために高い圧が必要になる。弛緩が遅れれば、流入を始める時刻と、充満に使える時間が変わる。
PV関係から、Starling曲線を導く
同じ収縮状態の心室では、充満が増えると一回拍出量も増える。Frank–Starlingの機序である。PV平面ではループの右端が右へ動き、駆出に使える容積が増えることに対応する。
収縮性が変えるもの――心筋の力、Ees、閉ループの拍出
心筋の収縮性が高まると、同じ初期長で発生できる張力が増し、同じ後負荷に対する短縮量も増える。ところが、心臓を血管につないだまま収縮を強めると、拍出量の増加が小さいことがある。送り出した後に残る量が減ると同時に、次の拍へ入る量も減るためである。
一拍を、圧・容積・流量から読む
左室は、大動脈弁が開くまで血液をほぼ一定量に保って圧を上げ、弁が開くと血液を送り出す。圧を作る段階と、流れを作る段階。この二つを一枚で追えるのが、圧–容積ループ(PV loop)である。