静脈還流と循環平衡――心拍出量は心臓と血管の交点で決まる
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Guytonの静脈還流曲線では、右房圧が上がるほど心臓へ戻る血液は減る。ところが、輸液をすると右房圧が上がり、心拍出量も増えることが多い。右房圧が還流を妨げるのなら、なぜ両方が一緒に上がるのだろうか。右房圧を還流の「背圧」とみなす解釈は、原因と結果を取り違えさせやすく、生理学者や臨床医を長く混乱させてきたと指摘されている1,2)。
この回では、心拍出量を、心臓側の関係と血管側の関係の交点として読む。読み終えたら、平均体循環充満圧と静脈還流の曲線の意味を説明できる。もう一方の曲線が変わらないとみなせる比較で、右房圧と心拍出量が同じ向きに動いたか逆向きに動いたかから、どちらの曲線が動いたかを推定できる。心拍数を上げても安静時の心拍出量があまり増えない理由を説明できる。
流れを止めると、圧は一つにそろう
血管は伸び縮みする袋であり、中の血液の一部は、壁を張らずに収まる量(無負荷容積)である。それを超えた分(負荷容積、stressed volume)が壁を押し広げ、圧を生む。心臓を止めて血液の移動が落ち着くと、循環の圧は一つの値にそろう(平均循環充満圧)。体循環について、流れのないときにそろう圧を平均体循環充満圧Pmsfと呼ぶ3)。
C_sysは体循環全体のコンプライアンスである。Maasらは、上腕をカフで一時的に遮断すると、動脈圧が下がり静脈圧が上がって、約30秒で近い値に落ち着くことを示した(図1)4)。流れがあれば動脈と静脈のあいだに圧の差があり、流れを止めるとその差が消える。血液の量と血管の容量で決まるこの圧が、静脈から心臓へ血液を押し戻す力の源になる。
図1:腕の血流を止めると、動脈圧と静脈圧が近づく

心臓手術後または心肺蘇生後の患者9人を対象とした予備研究(人工呼吸下)の一例。橈骨動脈の圧と同じ手の末梢静脈の圧を記録し、0秒に上腕をカフで遮断、約35秒で解除した。著者らは遮断30秒後の動脈圧を上腕の平衡圧とした。これは腕の局所の平衡で、体循環全体を止めて測ったPmsfではない。
原著 Fig. 1 · Maas JJ, et al. 2012 · 原図のまま掲載4) · CC BY(原著の記載)
静脈還流の曲線と、心臓の曲線
心臓が拍出すると、血液は静脈側から動脈側へ移され、右房圧が下がる。右房圧がPmsfより低いほど、静脈から心臓へ戻る圧の差が大きくなる。静脈が開いていて抵抗を一定とみなせる範囲では、還流量Q_VRは次のように書ける5)。
R_VRは静脈還流に対する抵抗で、体血管抵抗とは別の量である。右房圧が下がりすぎると、大静脈が胸の中でつぶれて流れが頭打ちになる。一方、心臓側の関係は、第5回で見た、充満圧を横軸にしたStarling曲線である。右心なら横軸は右房圧になる。注1
周期定常では、心臓から出る平均の流量と心臓へ戻る平均の流量は等しい。心拍出量と右房圧は、心臓側の関係と血管側の関係を同時に満たす点、つまり二本の曲線の交点に落ち着く。どちらか一方が他方を決めるのではなく、心臓と血管が一緒に決める。
予測:どちらの曲線が動いたか
基準から、二つの操作をする。総血液量を500 mL増やす操作と、両心室の収縮(能動張力)を0.75倍に弱める操作である。右房圧と心拍出量は、それぞれどちらへ動くだろうか。
確認問題
総血液量を増やした後、右房圧と心拍出量がどちらも上がった。心臓側の曲線は変わらないとみなすと、どちらの曲線が動いたと考えられるか。
- 静脈還流の曲線が右へ移った(Pmsfが上がった)
- 心臓の曲線が上へ移った
- 右房圧が上がったので、還流は減ったはずである
答えと解説
正解: 静脈還流の曲線が右へ移った(Pmsfが上がった)
血管側の曲線が動くと、平衡点は同じ心臓の曲線の上を動くので、右房圧と心拍出量は同じ向きに動く。心臓の曲線が動くと、同じ還流の曲線の上を動くので、逆向きに動く。
どちらの曲線が動いたか
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
インタラクティブ・シミュレーション. シナリオ 3件・グラフ 2件・出力 18件・操作 0件. グラフ 1. グラフ 2. 平均右房圧. 平均右房圧. 平均右房圧. 心拍出量(右心). 心拍出量(右心). 心拍出量(右心). 平均左房圧. 平均左房圧. 平均左房圧. 左室EDV. 左室EDV. 左室EDV. SV. SV. SV. 平均大動脈圧. 平均大動脈圧. 平均大動脈圧実験の図は、横軸に平均右房圧、縦軸に流量をとる。実線が登録済みの解析で構成した静脈還流の曲線、点の列が総血液量を変えて求めた心臓側のStarlingの点、大きな点が平衡点である。条件を切り替えて、どの線が動き、平衡点がどの線に沿って動いたかを見よう。表示には数十秒かかる。
総血液量を500 mL増やすと、還流の曲線が右へ移り、構成上のPmsfは約16.4 mmHgから約20.8 mmHgに上がった。平衡点は心臓の曲線に沿って右上へ動き、右房圧は約3.1 mmHgから約4.4 mmHgに、心拍出量は約5.6 L/分から約6.4 L/分に上がった。両心室の収縮を弱めると、心臓の曲線が下がり、平衡点はほぼ還流の曲線に沿って右下へ動いた。右房圧は約3.3 mmHgに上がり、心拍出量は約5.3 L/分に下がった。このとき、血液の一部が心臓と肺の側へ移ったため、構成上のPmsfも約16.4から約15.9 mmHgへわずかに下がっている。
図2:静脈還流の曲線と心臓の曲線の交点

右心側の循環平衡。実線は各条件の周期定常の血液量と血管の性質を固定して求めた静脈還流の構成曲線、破線と点は総血液量を段階的に変えて周期定常まで計算した心臓側の点(Starlingの点列。左右の拍出量が一致しなかった最も多い総血液量の点は除いた)、大きな点は平衡点。縦軸は大静脈と冠静脈洞から右房への還流量と心拍出量。Bの縦の点線は平衡点の右房圧。注2
CircleHeart Standard74の保存状態と登録済み解析から作図
右房圧と心拍出量が同じ向きに動けば血管側、逆向きに動けば心臓側の変化を考える。これは、もう一方の曲線がほぼ変わらないときに使える推定の読み方で、原因を一つに決める規則ではない。実際には両方が同時に動くことが多く、この実験でも心臓を弱めた条件や心拍数を上げた条件で、構成上のPmsfがわずかに動いている。
輸液で心拍出量が増えるかは、二本の曲線で決まる
輸液はPmsfを上げて還流の曲線を右へ移す。そのとき心拍出量がどれだけ増えるかは、平衡点が心臓の曲線の急な部分にあるか、平らな部分にあるかで決まる。急な部分にあれば、右房圧が少し上がるだけで心拍出量は大きく増える。平らな部分にあれば、右房圧が上がっても心拍出量はほとんど増えない6)。図2Aでは、基準の平衡点は心臓の曲線が平らになり始める手前にあり、500 mLで約13%増えた。
右房圧の値だけでは、自分が心臓の曲線のどこにいるかは分からない。心臓の曲線の形は、心室の収縮や硬さ、心拍数で変わるからである。第5回で見たように、輸液の効果は前負荷を短時間変えたときの応答で確かめるほうが確実である。
予測:心拍数を上げると、心拍出量は増えるか
CO=HR×SVだから、心拍数を70から100回/分に上げれば、SVが同じならCOは約43%増えるはずである。安静時のヒトで心房ペーシングにより心拍数を上げた研究では、どうだっただろうか。
確認問題
心筋の設定と血液量を変えずに、心拍数だけを70から100回/分に上げた。心拍出量はどうなるか。
- わずかしか増えず、SVが減る
- 約43%増える
- SVは変わらず、COが比例して増える
答えと解説
正解: わずかしか増えず、SVが減る
心拍数を上げて高くなるのは心臓の曲線の頭打ちの部分で、いまの右房圧の付近では曲線はほとんど上がらない。一拍ごとに入る血液が減り、SVが下がる。
心拍数を上げる
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
インタラクティブ・シミュレーション. シナリオ 2件・グラフ 2件・出力 12件・操作 0件. グラフ 1. グラフ 2. 平均右房圧. 平均右房圧. 心拍出量(右心). 心拍出量(右心). 平均左房圧. 平均左房圧. 左室EDV. 左室EDV. SV. SV. 平均大動脈圧. 平均大動脈圧実験で心拍数70と100を比べよう。心臓側の点列は、心拍数100で頭打ちの高さが約6.6 L/分から約8.0 L/分に上がる。しかし平衡点の右房圧(約3 mmHg)の付近では、二つの点列はほとんど重なっている(図2Bの縦の点線)。
心拍数100では、心拍出量は約5.6 L/分から約5.8 L/分と約3%しか増えなかった。SVは約80 mLから約58 mLに減った。ESVは約64 mLから約60 mLとほぼ変わらず、減ったのはEDV(約144 mLから約118 mL)である。平均左房圧は約8.4 mmHgから約7.2 mmHgに下がった。一拍の時間が短くなり、一拍ごとに入る血液が減ったためである。
二本の曲線から見ると、理由がはっきりする。心拍数を上げて高くなったのは、右房圧が約4 mmHgより高い範囲(頭打ちの部分)で、平衡点はそこに届かない。いまの右房圧の付近では、拍が速くなっても一拍ごとに入る血液が減るので(EDV 約144→118 mL)、一分間の拍出量はほとんど変わらない。心拍出量を大きく増やすには、還流の曲線が右へ移って(Pmsfが上がって)平衡点が曲線の高い部分へ進むことも必要になる。Badaらは健康な男性10人で、心房ペーシングにより心拍数を最大54回/分上げても、安静時の心拍出量は変わらず、SVが同じだけ減り、CVPと楔入圧が下がることを示した7)。このモデルでも左房圧は下がったが、右房圧はほとんど変わらなかった。一方、ペーシングで心拍出量が増えたという報告もあり8)、反射や血管の反応を含めた生体の応答は条件によって異なる。注3
右房圧は、原因か結果か
Guytonの実験では、ポンプで心拍出量を変え、そのとき右房圧がどうなるかを測った。そのため、「右房圧が上がると還流が減る」と読むと、原因と結果が逆になるという批判がある2)。一方で、負荷容積が一定なら、右房圧と還流は一対一に結びついており、どちらを独立の量とみなしても関係そのものは変わらないという立場もある9)。
このコースでは、次のように読む。周期定常の心拍出量と右房圧は、心臓側の関係と血管側の関係を同時に満たす点として決まる。心臓が血液を静脈側から動脈側へ移すと、右房圧が下がる。右房圧の低下は、流量が増えた原因ではなく、その結果として現れる。還流の曲線は、「右房圧をこの値にしたら、血管はどれだけ返せるか」を表す関係として使う。
確認
確認問題
ある変化の後、右房圧が上がり、心拍出量が下がった。血管側の還流の曲線はほぼ変わらないとすると、最も考えやすいのはどれか。
- 心臓側の曲線が下がった(ポンプの機能が落ちた)
- 血液量が増えた
- 静脈の容量が減って負荷容積が増えた
答えと解説
正解: 心臓側の曲線が下がった(ポンプの機能が落ちた)
右房圧と心拍出量が逆向きに動くのは、同じ還流の曲線の上を平衡点が動いたときで、心臓側の変化を考える。
確認問題
平均体循環充満圧Pmsfを上げる操作はどれか。
- 血液量を増やす、または静脈を収縮させて(静脈の張りを上げて)無負荷容積を減らす
- 心拍数を上げる
- 右房圧を上げる
答えと解説
正解: 血液量を増やす、または静脈を収縮させて(静脈の張りを上げて)無負荷容積を減らす
Pmsfは負荷容積を体循環のコンプライアンスで割ったもので、血液量と血管の容量で決まる。
確認問題
安静時に心拍数だけを上げても心拍出量があまり増えない理由として、最も適切なものはどれか。
- いまの右房圧の付近では心臓の曲線がほとんど上がらず、一拍ごとの充満が減ってSVが下がるから
- 心拍数が上がると心筋の収縮が必ず弱くなるから
- 心拍数を上げるとESVが大きく増えるから
答えと解説
正解: いまの右房圧の付近では心臓の曲線がほとんど上がらず、一拍ごとの充満が減ってSVが下がるから
心拍数を上げると心臓の曲線の頭打ちは高くなるが、平衡点の近くの形はほとんど変わらない。このモデルではESVはほぼ変わらず、EDVが減った。
注釈
- 注1静脈還流抵抗と体血管抵抗↩
体循環を、コンプライアンスC_aの動脈とC_vの静脈、動脈から静脈への抵抗R_a、静脈から右房への抵抗R_vの二区画で表し、各区画の圧–容積関係を線形とすると、Pmsf=P_RA+Q(R_v+C_a R_a/(C_a+C_v))が得られる。静脈還流抵抗R_VRは、動脈側の抵抗がコンプライアンスの比で重みづけられた値になり、体血管抵抗R_a+R_vとは組み合わせが異なる。一定の線形コンプライアンス、一定の抵抗、共通の外圧、周期平均の定常を仮定した近似である。
- 注2モデルの還流曲線と平衡点↩
Pmsfの式は心外の圧を0 mmHgとしたときの形で、周囲の圧P_extが0でなければPmsf−P_ext=V_stressed/C_sysとなる。
実験と図の還流曲線は、各条件の周期定常の血液の分布、血管の圧–容積関係、外圧を固定し、右房の圧を変えたときの還流を求めた構成曲線で、右房圧を実際に変えて測った応答ではない。平衡点に合わせて圧の座標を平行移動する処理を含み、構成できない条件もある。表示されるPmsfはこの構成法による値(構成上の平均体循環充満圧)である。
心臓側の点列は、冠循環のトーンを固定して総血液量を段階的に変え、それぞれを周期定常まで計算した点である。最も多い総血液量の点のなかには、左右の心拍出量が一致せず周期定常に達していないものがあり、図から除いた。実験の図には含まれることがある。各点では房圧や血液の分布も変わるため、右房圧を独立に制御して描く古典的な心機能曲線とは手順が異なる。両心室の収縮0.75は、左室自由壁・中隔・右室自由壁の能動張力の倍率を同時に下げた条件である。二本の曲線が交わることは、モデルが実測の循環平衡を再現した証拠ではない。
- 注3心拍数のモデル上の扱い↩
モデルの心拍数は40〜100回/分の規則正しい洞調律で、房室の間隔は一定である。心拍数に応じて心筋のカルシウムの時定数は短くなるが、心拍数による収縮力の増強(force–frequency関係)や、反射による血管・心臓の反応は含まない。心拍数を上げると、心臓と肺にあった血液の一部が体循環へ移り、構成上のPmsfは約16.4 mmHgから約17.4 mmHgにわずかに上がった。
文献
- A critical analysis of the view that right atrial pressure determines venous return Brengelmann GL. J Appl Physiol. 2003;94(3):849–859.↩
- Understanding Guyton's venous return curves Beard DA, Feigl EO. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2011;301(3):H629–H633.↩1↩2
- Volume and its relationship to cardiac output and venous return Magder S. Crit Care. 2016;20:271.↩
- Estimation of mean systemic filling pressure in postoperative cardiac surgery patients with three methods Maas JJ, Pinsky MR, Geerts BF, et al. Intensive Care Med. 2012;38(9):1452–1460.↩1↩2
- Venous return at various right atrial pressures and the normal venous return curve Guyton AC, Lindsey AW, Abernathy B, Richardson T. Am J Physiol. 1957;189(3):609–615.↩
- Starling curves and central venous pressure Berlin DA, Bakker J. Crit Care. 2015;19:55.↩
- Peripheral vasodilatation determines cardiac output in exercising humans: insight from atrial pacing Bada AA, Svendsen JH, Secher NH, et al. J Physiol. 2012;590(8):2051–2060.↩
- Circulatory effects in healthy young men of atrial pacing at rest and during isometric handgrip Bergenwald L, Eklund B, Freyschuss U. J Physiol. 1981;318:445–453.↩
- Guyton's venous return curves should be taught at medical schools (complete English translation of Japanese version) Sunagawa K. J Physiol Sci. 2017;67(4):447–458.↩