EFが上がれば収縮性も上がったのか――筋節からPVへ
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治療後にEFが上がった。心筋が以前より強く収縮するようになったと考えてよいだろうか。結論から言えば、EFだけでは判断できない。EFは一拍の駆出量を拡張末期容積で割った値であり、心筋の収縮状態に加えて、心室がどれだけ満たされたか、どれだけの圧に向かって駆出したかを同時に反映するからである。
本稿では、この結論を心筋が力を生む仕組みから組み立てる。Ca²⁺の信号はクロスブリッジの力に変わり、その力は壁応力を介して心室圧となる。そして心室と動脈の釣り合いからEFが決まる。この流れを式にすると、EFは心室の収縮末期エラスタンスEesと有効動脈エラスタンスEaの比に加えて、容積の条件にも依存することが分かる。最後に、心筋の張力と血管抵抗を別々に変えたシミュレーションで、同じEFの上昇に異なる道筋があることを確かめる。
Ca²⁺からクロスブリッジの力へ
心筋の収縮は、細胞内Ca²⁺濃度の一過性の上昇から始まる。活動電位に伴って流入したCa²⁺が筋小胞体からのCa放出を引き起こし、Ca²⁺がトロポニンCに結合すると、薄いフィラメントの調節状態が変わってミオシンがアクチンと結合できるようになる。ミオシン頭部はATPを使って結合・力発生・解離のサイクルを繰り返す。この結合がクロスブリッジである。1,2)
ただし、Ca濃度がそのまま力になるわけではない。Caの信号を力へ変える過程には、Caへの感受性、力を支えるクロスブリッジの数、結合・解離の速さ、筋節の長さや短縮による歪みが関わる。Ca濃度を一定に保って測ると、力はCa濃度に対してS字状に立ち上がる。この曲線の上限が最大Ca活性化力、左右の位置がCa感受性であり、あるCa濃度で出る力は両方の影響を受ける。2,3)
時間の面でも同じことが言える。弛緩には、Caの回収・排出とクロスブリッジの解離が必要である。そのため、同じ「収縮を強める」操作でも、Caの量を増やすのか、Ca感受性を上げるのか、クロスブリッジの数や速さを変えるのかによって、力の大きさだけでなく、力が立ち上がって消えるまでの時間経過も違い得る。この違いは、一拍が短くなる頻脈の条件で意味を持つ。1)
ここでいう収縮性は、初期長、負荷、刺激頻度をそろえたときの心筋の収縮状態を指し、実際に発生した力や心室から出た血液量とは区別する。同じ心筋でも、長さや負荷が違えば発揮する力が変わるからである。その代表が、次に見る長さ依存性である。
筋節長は力もCa感受性も変える
Frank–Starling機構の細胞側の基盤は、長さ依存活性化である。生理的な範囲で筋節を長くすると、最大Ca活性化力が増すだけでなく、Ca感受性も上がり、最大に達しないCa濃度でもより大きな力を出す。伸展そのものによる受動的な張力の増加とは別の現象である。4)
図1は、ラット心室の透過化筋束でCa濃度と筋節長を制御して測った力である。aでは、筋節を1.9から2.3 µmへ伸ばすと能動力と受動力がともに増えるが、両者は別の系列として読む。bでは、長い筋節で曲線の上限が高い。上限をそろえた点線でも曲線は低いCa濃度側(図では左)にずれており、Ca感受性の上昇を示す。最大力の増加だけでは、二つの曲線の差は説明できない。4)
図1:筋節長は最大発生力とCa感受性の両方を変える

Zhangら(2017)原著Fig. 1。ラット心室の透過化筋束、20–22°C。a:筋節長に対する最大Ca活性化力(黒丸)と受動力(白丸)、n=6筋束。b:筋節長1.9 µm(白丸)と2.3 µm(塗りつぶし丸)のpCa–力関係、n=10。T₀は1.9 µmでの最大力。点線は2.3 µmの曲線をその最大値で正規化したもの。誤差棒はSEM。pCaは右へ行くほど小さく、この図では右ほどCa濃度が高い。
© 2017 Zhang et al., eLife 6:e24081, Fig. 1. doi:10.7554/eLife.24081.003。原図は改変せず掲載。図題・説明・代替テキストは本稿による日本語説明。 · CC BY 4.0
この性質のため、心室がより多く満たされると、心筋の収縮状態を変えなくても同じCa信号からより大きな力が生まれる。心室レベルでは、他の条件をそろえた心機能曲線の上行部で、拡張末期容積が大きいほど拍出が増えるFrank–Starling関係として現れる。収縮性を比べるときに前負荷をそろえるのはこのためである。なお分子の段階では長さと活性化は互いに絡み合っており、独立した二つのスイッチではない。注1
壁応力から心室圧へ
心筋の力を心室圧へつなぐには、力を単位面積当たりの応力に直し、心室の形を入れる必要がある。最も簡単な模型として、半径r、壁厚hの薄い球殻を考える。球を二つに割る断面で、内外の圧差Ptmが押し広げる力はPtm·πr²、切り口の壁が支える力は2πrh·σである。σを壁に一様な応力として両者を釣り合わせると、次式を得る。
同じ応力からできる圧は、壁が厚いほど高く、内腔が大きいほど低い。裏返せば、同じ圧を出すのに要る応力は、拡大した心室ほど大きく、壁が厚いほど小さい。これは薄肉球の近似であり、実際の心室の応力分布を計算する式ではない。それでも、心室の圧と容積から心筋そのものの性質を読むには形の情報が要ることを、この式ははっきり示している。
臨床の観察でも、心室全体の性質と心筋の性質は分けて考える必要がある。高血圧やHFpEFの患者を含む観察研究では、収縮末期の心室の硬さと、心筋の収縮機能を表す指標が同じ方向には変化しなかった。5)
PVループは、心室が一拍の間にたどった圧と容積の軌跡である。これに対し、収縮末期圧容積関係ESPVRは、負荷を変えた複数の拍から収縮末期の点を集めて得る関係で、その傾きが収縮末期エラスタンスEesである。上の議論から分かるとおり、Eesは心筋の収縮状態と心室の形を併せ持つ、心室全体の指標である。一拍のループを眺めることと、負荷を変えて心室の性質を調べることは、別の測定である。注2
EFを心室と動脈の釣り合いから導く
ここまでの要素を、EFの式にまとめる。弁逆流がなく、駆出終了が収縮末期にあたる心室を考え、ESPVRを直線で近似する。収縮末期圧をPes、収縮末期容積をESV、直線を圧ゼロまで延ばしたときの容積切片をV₀とする。駆出先の負荷は、有効動脈エラスタンスEa=Pes/SVで要約する。Eaは、動脈側の負荷を心室と同じ圧/容積の単位で表すための量である。6)
EDVは拡張末期容積である。容積をmL、圧をmmHgで表せば、EesとEaはともにmmHg/mLの単位を持つ。第1式にESV=EDV−SVを代入し、第2式から得るPes=Ea×SVと等しく置くと、Ea×SV=Ees×(EDV−SV−V₀)となる。これをSVについて解けば、一回拍出量と駆出率が得られる。
EDVとV₀を固定すれば、EFを上げる道はEesの上昇とEaの低下の二つある。しかもEFに入るのは比Ea/Eesだけなので、EesとEaが同じ倍率で変わればEFは変わらない。EFという一つの値からは、心室側の変化と動脈側の変化を区別できない。これが冒頭の問いに対する、式の上での答えである。
V₀≈0と置ければ、EF≈1/(1+Ea/Ees)と短く書ける。ただしV₀は心室が実際に空になる容積ではなく、直線の外挿切片である。V₀を無視できない場合やEDVが変わる比較では、後ろの因子(1−V₀/EDV)も動く。Eaも動脈壁の硬さそのものではなく、心拍数や血管抵抗などの作動条件を一つにまとめた指標である。注37)
張力と血管抵抗を別々に変える
心筋側では、左室自由壁と中隔の能動応力の基準値Trefを、基準の0.70倍(低張力)または1.00倍(基準張力)にする。血管側では体血管抵抗を高・低の二水準に設定する。心拍数、総血液量、弁、受動的な心筋特性は共通とし、各条件の周期定常の一拍を比べる。まず低張力を保ったまま、抵抗だけを変えた組を見る。注4
総EFと平均大動脈圧を並べ、PVループの幅と位置を見る。EFの上昇が、拍出量の増加だけによるのか、容積の縮小も伴うのかを確かめてほしい。
このシミュレーションでは総血液量を固定しているが、EDVは固定していない。閉鎖循環では、血液が各区画にどう分布し、左右の心室がどの充満で釣り合うかも結果の一部になる。前節の固定EDVの式は予測の補助線であり、シミュレーションそのものを支配する式ではない。
インタラクティブ・シミュレーション
心筋の設定を保ち、血管抵抗を下げる
低張力を共通にした二条件。EFと圧が同じ向きに動くかを見る。
シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 4件・操作 0件
- グラフ 1
- 総EF
- 総EF
- 平均大動脈圧
- 平均大動脈圧
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
低張力のまま抵抗を高から低へ下げると、EFは45.1%から52.8%へ上がり、平均大動脈圧は100.9から74.5 mmHgへ下がった。心筋の設定を変えず、血管側の設定だけを変えてもEFが上がったことになる。
インタラクティブ・シミュレーション
血管抵抗を保ち、心筋張力の基準値を上げる
高抵抗を共通にした二条件。先の比較と同じ低張力・高抵抗を基準にする。
シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 4件・操作 0件
- グラフ 1
- 総EF
- 総EF
- 平均大動脈圧
- 平均大動脈圧
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
高抵抗のまま張力を低張力から基準張力へ上げると、EFは45.1%から53.0%へ上がった。こちらでは平均大動脈圧が100.9から105.4 mmHgへわずかに上がっている。ほぼ同じEFの上昇に、逆向きの圧の変化が伴った。
どちらの組でも、EFの上昇はSVの増加だけによるものではない。SVの増加は3〜5 mLにとどまり、最小左室容積は約20 mL減り、最大左室容積も15〜18 mL減った。分子がわずかに増え、分母が縮んだ結果として、EFが約8ポイント上がっている。平均左房圧も両組で11.5から約9 mmHgへ下がっており、心室を満たす条件そのものが循環の中で変わった。
低張力・低抵抗(EF 52.8%)と基準張力・高抵抗(53.0%)では、EFはほぼ同じでも平均大動脈圧は74.5と105.4 mmHgで大きく違う。EFという一つの値だけでは、心筋と負荷の条件を識別できない。近似式でも、V₀/EDVをそろえたときに分かるのはEa/Eesの比であり、それぞれの大きさではない。
ここで変えたのは能動応力の基準値Trefという入力であり、Eesではない。同じ筋節長と状態で比べれば能動応力はTrefに比例するが、Ca波形、Ca感受性、クロスブリッジの遷移速度は変えていない。心室圧やEF、さらに負荷を変えて得たESPVRから求めるEesは、この入力に循環全体が応答した結果として決まる観測量であり、Trefと同じ比率で変わるとは限らない。この実験ではEesもEaも測っていないので、上の比較は近似式の予測と向きが一致することの確認にとどまる。注5
EFが変わったら、何が変わってその値になったかを問う。筋節が生む力、その力を圧に変える心室の形、駆出先の負荷、心室を満たす条件を順にたどれば、同じEFの上昇にも別々の道筋があることが見えてくる。PVループはそれらが合わさった一拍を示すが、収縮性を読むには、負荷条件をそろえた比較や、負荷を変えた系列の中でその一拍を読む必要がある。
MRを減らしたらEFが下がるのはなぜか次の記事 — 収縮性を考えるCircleHeart注釈
- 注1長さ依存活性化の範囲と図の読み方↩
図はラットの透過化筋束でCa濃度を制御した実験であり、生体の一拍のCa波形を測った図でも、本稿のシミュレーション結果でもない。長さ依存活性化の機序としては、薄いフィラメントと厚いフィラメントそれぞれの調節やtitinとの関係が研究されており、フィラメントの重なりが増えるだけでは説明されない。
pCa=−log₁₀([Ca²⁺]/1 mol/L)なので、pCaが小さいほどCa濃度は高い。原図bの横軸は右へ行くほどpCaが小さい。S字曲線はHill式の当てはめで測定値を要約したものであり、一拍の張力波形をそのまま決める式ではない。
- 注2Eesを比較するときの条件↩
ESPVRには曲率があり、比較する負荷の範囲や評価時点によって、直線近似の傾きと切片が変わり得る。一拍から推定する方法もあるが、追加の測定や波形についての仮定を用いる。8,9)
本稿のシミュレーションで負荷系列を解析する場合は、条件ごとの周期定常状態を用いる。臨床で下大静脈を短時間閉塞して得る拍列とは異なる。本文で比べた条件の点を結んでも、ESPVRを測定したことにはならない。
- 注3式の成立条件と圧の基準↩
導出は、直線ESPVR、逆流のない一回拍出量、駆出終了と収縮末期の対応、共通の圧基準を仮定した近似である。Ees>0、Ea>0、EDV>V₀の範囲で読み、V₀や負荷域を無視した定量評価へ広げない。
Ptmは内腔圧から周囲の圧を引いた経壁圧である。シミュレーションのPVループで用いる経壁圧と、臨床で測る内腔圧・動脈圧を混ぜてEesやEaの式へ代入しない。Ea=Pes/SVは圧と拍出の要約であり、全身血管抵抗を固定すればEaも固定されるという意味ではない。
- 注4条件設定と掲載値の定義↩
総血液量は4,935 mLで全条件共通とした。全身血管抵抗の倍率はモデル内部の参照抵抗に対する係数であり、臨床で計算するSVRの値そのものではない。EFは一拍の最大・最小左室容積から、SVは大動脈弁の前方流量から求めた値で、今回の四条件では両方のSVが一致した。最大・最小容積は、弁閉鎖のイベントで定義するEDV・ESVとは無条件には置き換えない。本実験ではEesとEaを計測・回帰しておらず、本文の代数式は結果を考えるための説明用近似である。
- 注5Tref操作が表すこと↩
張力の設定は、選んだ壁のLand型筋フィラメントモデルで、能動応力の基準値Trefに係数を掛けるものである。循環と結合すると筋節長や状態変数も変わるため、心室圧やEFが同じ倍率で変わるわけではない。Landらの実験とモデルは筋収縮を記述する基盤であり、統合した循環モデルの独立した臨床検証ではない。3)
本稿は条件間を移る過渡過程を扱わず、周期定常状態の一拍を比較する。生体のCaハンドリングや薬剤の効果を、この基準値の変更だけで定量的に再現したとは解釈せず、薬剤の用量やEesの倍率にも読み替えない。
文献
- Solaro — Control of Contractility Is at the Cellular Level of Organization Regulation of Cardiac Contractility(2011)の公式公開章。Ca供給・放出・回収と興奮収縮連関の説明に使用。↩1↩2
- Solaro — Left Ventricular Diastolic and Systolic Pressure, Ejection, and Relaxation Reflect Sarcomeric Mechanical Properties Regulation of Cardiac Contractility(2011)の公式公開章。筋節の調節、架橋、ATPと心室の収縮・弛緩をつなぐ説明に使用。図の自由再利用条件は未確認のため、当該章の図は転載していない。↩1↩2
- Land et al. — A model of cardiac contraction based on novel measurements of tension development in human cardiomyocytes 実験・モデル原著。J Mol Cell Cardiol. 2017;106:68–83. DOI:10.1016/j.yjmcc.2017.03.008。ヒトskinned心筋細胞とモデル構築。統合アプリの独立検証ではない。↩1↩2
- Zhang et al. — Distinct contributions of the thin and thick filaments to length-dependent activation in heart muscle 実験原著。eLife. 2017;6:e24081. DOI:10.7554/eLife.24081。ラット心室の透過化筋束。関連する結果・方法、Fig. 1の原画像・全図注、当該記事のCC BY 4.0表示を確認。Fig. 1を改変せず掲載。生体の一拍や現行アプリの独立検証を直接示す図ではない。↩1↩2
- Borlaug et al. — Contractility and ventricular systolic stiffening in hypertensive heart disease ヒト観察研究。J Am Coll Cardiol. 2009;54:410–418. DOI:10.1016/j.jacc.2009.05.013。対照617、高血圧719、HFpEF244人、非侵襲推定。↩
- Sunagawa et al. — Left ventricular interaction with arterial load studied in isolated canine ventricle 動物原著。Am J Physiol. 1983;245:H773–H780. DOI:10.1152/ajpheart.1983.245.5.H773。犬8左室とWindkessel負荷。↩
- Chirinos et al. — Effective arterial elastance is insensitive to pulsatile arterial load ヒト原著。Hypertension. 2014. DOI:10.1161/HYPERTENSIONAHA.114.03696。一般集団・臨床集団・等尺性運動でEaを検討。↩
- Kass et al. — Influence of contractile state on curvilinearity of in situ end-systolic pressure-volume relations 動物原著。Circulation. 1989;79:167–178. DOI:10.1161/01.CIR.79.1.167。開胸犬6匹。ESPVRの曲率と回帰範囲。↩
- Chen et al. — Noninvasive single-beat determination of left ventricular end-systolic elastance in humans ヒト方法論原著。J Am Coll Cardiol. 2001. DOI:10.1016/S0735-1097(01)01651-5。単拍推定に必要な測定と仮定の説明用。↩