HFpEF:肺動脈圧だけで右室は読めるか

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目次

右心カテーテル検査で、平均肺動脈圧(mPAP)が前回より低かったとする。肺循環の負荷が軽くなり、右室が楽になったと読んでよいだろうか。mPAPは、右室が血液を送り出す先の圧である。同時に、右室が血液を送り出した結果として生じる圧でもある。そのため、同じ低下が負荷の軽減を表すこともあれば、右室が十分な血液を送れなくなったことを表すこともあり得る。

本稿の問いは、肺動脈圧だけで右室の負荷や血液を送り出す能力を読めるか、である。とくに、低い、あるいは低下した肺動脈圧が、必ずしも右心負担の軽減を意味しない理由を、臨床データ、mPAPを分解する式、モデルの4つの定常状態から考える。

臨床の群比較:心係数の群平均が近くても圧は違う

Melenovskyらは、HFpEF 96例を心エコーで測った右室の面積変化率(FAC)で分けた。FAC<35%を右室機能障害(RVD)とし、RVDなしは64例、ありは32例だった。右心カテーテルは仰臥位・安静で行い、圧は呼気終末で読んでいる。心エコーとカテーテルの間隔は48時間以内である。図1は、同論文のTable 1から4項目を選び、群平均±SDとして描き直したものである。 1) 注1

図1:右室機能で層別したHFpEF 2群の肺動脈圧・楔入圧・心係数・肺血管抵抗

HFpEFのRVDなし群とRVDあり群について、平均肺動脈圧、肺動脈楔入圧、心係数、肺血管抵抗の群平均と±SDを4つのパネルに示した図。平均肺動脈圧と肺血管抵抗はRVDあり群で高く、楔入圧は2群で近く、心係数は2群で同じ値である。

Melenovsky V et al. 2014のTable 1から選んだデータをもとに作図した(原著図の転載ではない)。HFpEF 96例を心エコーの右室面積変化率(FAC)で層別し、RVDなし(n=64)とRVDあり(FAC<35%、n=32)を比べている。圧は仰臥位・安静時・呼気終末で測定され、心エコーとの間隔は48時間以内である。各パネルで群平均と±SDを示す。SDは患者間のばらつきである。平均肺動脈圧と楔入圧は同じ0–60 mmHgの軸で描き、心係数(L/min/m²)と肺血管抵抗(WU)はそれぞれ別の軸で描いた。肺血管抵抗は(mPAP−PAWP)/COで求めた値である。患者群間の観察比較であり、同じ患者の介入前後の変化ではない。 1)

RVDあり群のmPAPは41±12 mmHgで、RVDなし群の33±9 mmHgより群平均で高かった。肺血管抵抗(PVR)も3.4±2.2 WU対2.3±1.2 WUと高い。一方、肺動脈楔入圧(PAWP)は22±5.8 mmHg対20±6 mmHgと差が小さく、心係数(CI)は両群とも3.0±0.5 L/min/m²だった。群平均で見る限り、右室機能の異なる2群が、同程度の心係数を異なる肺動脈圧のもとで出していたことになる。 注2

ここから読み取れるのは、心係数が同じでも、右室にかかる圧や右室の機能は同じとは限らないということである。ただし、これは群どうしの観察比較である。右室の機能低下が圧の上昇に先立ったのか、その結果なのかは分からない。SDは患者間のばらつきを表し、示した平均±SDの範囲には重なりがある。この平均±SDを、個々の患者を分類する区間や、モデルを合わせる目標としては使わない。

肺血管の条件を変えずに右室の収縮だけが弱くなったとき、肺動脈圧がどちらへ動くかも、この比較からは分からない。臨床の群間でRVDと高いmPAPが一緒に現れても、それはこの方向を示す根拠にならない。また、代償期のHFpEFでは、安静時の右室収縮性が対照群よりむしろ高かったという圧–容積ループの報告がある。右室収縮の低下は、HFpEFに共通する特徴ではない。本稿で右室の収縮を下げる条件は、一部の患者で起こり得る機序の一つとして扱う。 2)

平均肺動脈圧を分解する

右室から肺動脈に出た血液は、肺の血管床を通って左房へ戻る。一心周期で平均すると、肺動脈と左房の平均圧の差が、この区間の平均血流を押していると考えられる。ここでは肺側の正味流量が正(Qp>0)で、圧と流量を同じ周期定常の一拍から求められる条件を対象とする。平均肺動脈圧、平均左房圧、肺動脈弁を通る正味の血流Qpから、次の量を定義する。上線は一心周期の平均を表す。

Reff=PPAPLAQpR_{\mathrm{eff}} = \frac{\overline{P}_{\mathrm{PA}} - \overline{P}_{\mathrm{LA}}}{Q_{p}}

本稿ではこれをPA–LA実効負荷と呼ぶ。圧をmmHg、流量をL/minで表すと、単位はWood単位(WU=mmHg·min/L)になる。臨床のPVRは(mPAP−PAWP)/COで求める。ここでは楔入圧の代わりにモデルの平均左房圧を、COの代わりに同じ拍の肺側の正味流量を使う。定義式を書き換えると、次の形になる。

PPA=PLA+ReffQp\overline{P}_{\mathrm{PA}} = \overline{P}_{\mathrm{LA}} + R_{\mathrm{eff}}\,Q_{p}

右辺の第1項は肺循環の出口側の圧、第2項は実効負荷と肺血流の積である。平均肺動脈圧は、出口の圧に、血流を通すのに必要な圧差を上乗せした値として読める。すると、mPAPが下がる道筋は少なくとも3つある。左房圧が下がる場合、実効負荷が下がる場合、そして肺血流が減る場合である。下流圧や実効負荷の低下は、対応する負荷成分の低下を表す。ただし、左房圧の低下も流入の減少によって生じ得るため、それだけで循環の改善とは決められない。肺血流の減少なら、右室が送る血液そのものが減ったことを意味する。圧の値だけでは、この3つを区別できない。

この式は定義を並べ替えただけなので、Qpが正で必要な量を定義できる対象の周期定常条件では、代数上成り立つ。シミュレーションの結果がこの式を満たしても、モデルの正しさを独立に確かめたことにはならない。また、3つの量のどれが変化の原因かも、式からは分からない。閉じた循環では、流量が変われば左房圧も変わるからである。この式の役割は、圧の変化を説明するために、どの量を同時に読むべきかを示すことにある。

測定の定義:どの圧とどの流量を使うか

平均肺動脈圧、平均左房圧、Qpは、周期定常に達した同じ完了拍から求める。圧は内腔圧の一心周期にわたる時間平均である。原著の臨床平均圧は呼気終末に取得されており、呼吸の位相をそろえる条件と、心周期の中で圧を平均する操作は別である。モデルはカテーテルによる計測過程を再現しておらず、平均左房圧と臨床のPAWPは測定部位と取得方法が異なる。

Qpは、肺動脈弁を通る順方向の容積から逆方向の容積を差し引いた正味の量を、その拍の長さで割った値である。体循環側の正味流量Qsも、大動脈弁で同じように求める。周期定常の同じ一拍で両方を求め、回路の保存則に対応した流量の整合を確かめる。一拍の途中で各区画が血液を蓄えることと、一周期の正味の収支は区別する。表示で「CO」と書く場合は、順方向の流量か正味の流量かを明記する。

Workbenchにある既存のPVRカードは、分子が肺動脈と肺静脈の圧差、分母が肺動脈から末梢肺動脈への平均流量である。本稿のPA–LA実効負荷とは分子も流量の位置も異なり、数値が一致するとは限らない。そのため、本稿の比較には用いない。

PA–LA実効負荷は、右室の後負荷の一部にすぎない。右室は収縮期の圧の立ち上がりや、肺動脈の伸展性(コンプライアンス)が生む拍動性の負荷にも抗して拍出する。Tedfordらは、楔入圧が高いほど、同じ抵抗でも肺動脈のコンプライアンスが低い側へ移ることを示した。平均圧や抵抗だけでは、右室の後負荷を言い尽くせない。 3) 本稿のモデルには肺動脈のコンプライアンスを単独で変える入力がないため、この点は比較の対象にしない。右室の圧–容積ループは全体の動作を読むために用い、その形だけから拍動性負荷を分離・定量したとはしない。 注3

右室は負荷を受け、流れも作る

右室は肺循環の流れの源であり、Qpを作り出している。同時に、肺動脈側の圧に抗して拍出する。式でいえば、右室は右辺の流量を決める側であり、左辺の圧を受ける側でもある。肺血管を変えずに右室の収縮だけが弱まれば、Qpが減った分だけ実効負荷と流量の積が小さくなり、mPAPを下げる向きに働く。

ただし閉じた循環では、右室が送り出さなかった血液は消えず、右房や体静脈側にとどまる。左心へ送られる血液が減れば、左房圧も下がり得る。心室中隔の動きや心膜内で共有される圧も、左心の充満を変え得る。反対に、右室が拡張期により多く充満して拍出を保てば、Qpの減少は小さくなる。mPAPがどれだけ動き、その差が式のどの項に現れるかは、式だけからは決まらない。

モデルで4つの定常状態を比べる

比較の背景には、採用済みのpreset『HFpEF:左室の硬さと容量負荷』の入力をそのまま使う。左室自由壁と中隔の受動特性の倍率を1.33に設定し、総血液量を5235 mL、心拍数を70/minとした条件である。これは、EFが保たれたまま左心の充満圧が上がる機序を学ぶための教材条件である。HFpEFの患者や、左心疾患に伴う肺高血圧の患者集団を再現したものではない。

この背景の上で、2つの入力だけを変える。1つ目は肺抵抗の入力で、Aと同じ0.625と、0.8を比べる。この値は、肺動脈から末梢の肺動脈、さらに肺毛細血管へ至る2つの区間の線形抵抗に掛ける倍率である。Wood単位の肺血管抵抗全体を何倍にするという意味ではなく、毛細血管より下流の抵抗則の入力は変えない。2つ目は右室自由壁の能動張力の倍率で、1と0.75を比べる。これは心筋が発生する張力の基準値を、自由壁でだけ下げる入力である。右室全体の収縮性(Ees)や、障害された心筋の割合を直接表すものではない。中隔と左室の能動張力の入力係数は変えないが、実際に生じる張力は力学状態に応じて変わり得る。 注4 注5

固定するのは入力であり、結果ではない。心拍数、総血液量、静脈の緊張、体血管抵抗、弁、心膜、両心室の受動特性は、4条件で同じにする。左房圧、右房圧、各心腔の容積、肺と体の血流、中隔の力学状態、心膜内で共有される圧、冠血流の調節は、それぞれの条件で自由に落ち着く。したがって、肺抵抗の入力を固定した比較でも、観測されるPA–LA実効負荷が一定に保たれるとは限らない。各条件は別々に計算し、周期定常に収束した一拍どうしを比べる。ある状態から別の状態へ移る過程や、その速さは扱わない。

4条件は、採用済みAと同じ入力の条件(以下、A入力条件:肺抵抗0.625、張力倍率1)、肺抵抗だけを0.8にした抵抗増条件、右室自由壁の張力倍率だけを0.75にした張力低下条件、両方を変えた併用条件である。肺抵抗の比較は張力倍率1と0.75の2か所で、張力の比較は肺抵抗0.625と0.8の2か所で行える。どの比較でも変える入力は一つだが、観察されるのは閉じた循環全体がそれぞれに落ち着いた定常状態の違いであり、右室だけを切り出した性質ではない。本稿では、肺抵抗を0.8に固定した抵抗増条件と併用条件の比較を中心に読む。

観察の前に予測する

数値を見る前に予測してほしい。まず、右室自由壁の張力倍率を固定したまま肺抵抗の入力だけを上げた条件では、mPAP、Qp、右房圧はそれぞれどちら向きに違うか。その差は、式のどの項に現れるだろうか。

次に、肺抵抗の入力を0.8に固定し、右室自由壁の張力係数だけを下げた条件では、mPAPは高いか、低いか、ほとんど変わらないか。平均左房圧、実効負荷、Qpの差を一つずつ書き出し、右室の拡張末期容積と駆出率、右房圧も予測してみる。

最後に、併用条件のmPAPが抵抗増条件より低かったとする。それを右室の負担が軽い徴候と読んでよいか。判断する前に、どの量を確認すべきだろうか。

結果:肺抵抗を固定して右室自由壁の張力係数を下げる

肺抵抗の入力を0.8に固定し、右室自由壁の張力倍率だけが1と0.75で異なる抵抗増条件と併用条件を比べる。この順に、mPAPは22.3対21.3 mmHg、Qpは5.97対5.82 L/min、平均左房圧は11.3対10.6 mmHgだった。右室自由壁の張力係数が低い条件で、mPAPも肺血流も左房圧も低い。PA–LA実効負荷は、表示精度ではどちらも1.84 WUだった。 図2

図2:肺抵抗入力0.8で右室自由壁の張力係数だけが異なる2条件:右室圧–容積ループと平均肺動脈圧の内訳

左のパネルは2条件の右室圧–容積ループを同じ座標に重ねた図。張力倍率0.75の併用条件のループは、拡張末期容積170.9 mL・収縮末期容積87.7 mLで、張力倍率1の条件(図中の「基準」、拡張末期容積159.5 mL・収縮末期容積74.1 mL)より容積の大きい側にあり、幅(一回拍出量)はわずかに狭い。右のパネルは平均肺動脈圧を平均左房圧と実効負荷×肺血流の積み上げ棒で示した図。「基準」は11.3+11.0=22.3 mmHg、併用条件は10.6+10.7=21.3 mmHgである。

本シミュレーションの計算結果であり、患者の測定値ではない。2条件とも肺抵抗の入力は0.8で、右室自由壁の張力倍率だけが1と0.75で異なる。図中の「基準」は張力倍率1の条件、すなわち本文の抵抗増条件を指し、4条件のうちのA入力条件(肺抵抗0.625)ではない。もう一方は張力倍率0.75の併用条件である。各条件は別々に計算した周期定常状態であり、図中の矢印は2条件の比較を示し、時間経過を表さない。左:右室の圧–容積ループ。縦軸は右室の経壁圧、横軸は右室容積で、2条件を同じ座標に描いた。各条件で計算結果として確定した周期定常の一拍の原波形を、公称時間刻み1 msの計算で確定した時刻の順に結んだ。拡張末期と収縮末期の点は、その拍で三尖弁と肺動脈弁がそれぞれ最初に閉じた時点で取った。右:平均肺動脈圧(内腔圧の一心周期平均)を、平均左房圧とR_eff·Qpの積み上げとして示す。2条件を同じ横軸の目盛りで描いた。

右室側の量は、mPAPとは逆の読みを示した。抵抗増条件と併用条件の順に、右室駆出率は53.5%対48.7%、平均右房圧は3.88対4.14 mmHg、右室拡張末期容積は159.5対170.9 mLだった。圧–容積ループでは、併用条件のループが拡張末期・収縮末期とも容積の大きい側にあり、一回拍出量は85.3対83.2 mLだった。張力係数を下げた右室は、より大きな容積まで充満しながら、送り出す量はわずかに少なかった。

mPAPの差がどの量の差と同時に現れたかは、2条件の差の式で整理できる(導出は下の「詳しく」)。抵抗増条件を条件1、併用条件を条件2とすると、差は次のように分かれる。

詳しく:2条件の差を式で分ける

条件1から条件2への差をΔで表すと、定義式から次の関係が得られる。R_eff,1とQp,1は条件1での値である。

ΔPPA=ΔPLA+Reff,1ΔQp+Qp,1ΔReff+ΔReffΔQp\Delta\overline{P}_{\mathrm{PA}} = \Delta\overline{P}_{\mathrm{LA}} + R_{\mathrm{eff},1}\,\Delta Q_{p} + Q_{p,1}\,\Delta R_{\mathrm{eff}} + \Delta R_{\mathrm{eff}}\,\Delta Q_{p}

最後の項は2つの変化の積である。変化が小さければ小さくなるが、省かずに残す。この分け方は代数上の恒等式であり、各項を独立した原因の寄与率とみなすことはできない。流量が変われば左房圧や実効負荷も一緒に変わり得るうえ、どちらの条件を基準に取るかで項の配分も変わる。各項は、圧の変化がどの量の変化と同時に起きたかを整理する帳簿として使う。

ΔPPA0.979=ΔPLA0.703+Reff,1ΔQp0.276+Qp,1ΔReff+ΔReffΔQp+0.0001(mmHg)\underbrace{\Delta\overline{P}_{\mathrm{PA}}}_{-0.979} = \underbrace{\Delta\overline{P}_{\mathrm{LA}}}_{-0.703} + \underbrace{R_{\mathrm{eff},1}\,\Delta Q_{p}}_{-0.276} + \underbrace{Q_{p,1}\,\Delta R_{\mathrm{eff}} + \Delta R_{\mathrm{eff}}\,\Delta Q_{p}}_{\approx +0.0001}\qquad(\mathrm{mmHg})

mPAPの差約−0.98 mmHgは、平均左房圧の差と、流量の差の項の和でほぼ尽くされる。実効負荷の差を含む残り2項は、合わせて約0.0001 mmHgにすぎない。実効負荷の差は1.56×10⁻⁵ WUで、2つの値は完全に同じではないが、表示精度ではどちらも1.84 WUであり、抵抗の上昇として読む大きさではない。この比較でのmPAPの低さは、実効負荷がほぼ同じまま、左房圧とQpがともに低い組合せとして現れている。

ただし、各項の大きさを原因ごとの寄与の割合として読むことはできない。今回の周期定常状態では肺側と体側の正味流量が数値上ほぼ一致しており、Qpが少なければ左心へ送られる血液も少ない。左房圧の差とQpの差は、同じ閉じた循環の違いを別の面から数えている可能性がある。この式が示すのは、どの量が同時に違っていたかという帳簿までである。

肺抵抗の入力の効果も確認しておく。張力倍率1で、A入力条件と抵抗増条件の順に、実効負荷は1.69対1.84 WU、mPAPは21.7対22.3 mmHg、Qpは6.00対5.97 L/minだった。平均右房圧はわずかに高く(3.83対3.88 mmHg)、平均左房圧はわずかに低かった。差の式では、mPAPの差(約+0.64 mmHg)は主に基準流量と実効負荷の差の積(Q_p,1ΔR_eff、約+0.88 mmHg)の項に現れ、平均左房圧の差(約−0.18 mmHg)がそれを一部打ち消す形になる。張力倍率0.75の側でも、実効負荷(1.69対1.84 WU)、mPAP(20.7対21.3 mmHg)、Qp(5.86対5.82 L/min)は同じ向きに違っていた。

右室自由壁の張力を下げた差は、肺抵抗の入力が0.625でも0.8でも同じ向きだった。張力倍率0.75の条件では、mPAP、Qp、右室駆出率が低く、平均右房圧と右室拡張末期容積が大きい。肺抵抗0.625の側では、A入力条件と張力低下条件の順に、mPAPは21.7対20.7 mmHg、右室駆出率は54.2%対49.5%だった。これらの差の向きは、時間刻みを変えた計算でも変わらなかった。

2つの入力を両方変えた効果が、それぞれの効果の和と異なるかどうかは、mPAP、Qp、右室駆出率のいずれについても判定できなかった。和からのずれが、時間刻みを変えたときの値の違いより小さかったからである。したがって、この4条件から、効果が単純な足し算になるとも、互いに強め合うとも結論しない。

詳しく:4条件の値と差の向きの判定

A入力条件、抵抗増条件、張力低下条件、併用条件の順に示す(1 ms刻みの計算)。mPAPは21.7、22.3、20.7、21.3 mmHg。平均左房圧は11.5、11.3、10.8、10.6 mmHg。Qpは6.00、5.97、5.86、5.82 L/min。PA–LA実効負荷は1.69、1.84、1.69、1.84 WU。平均右房圧は3.83、3.88、4.08、4.14 mmHg。右室拡張末期容積は158.0、159.5、169.1、170.9 mL、収縮末期容積は72.3、74.1、85.5、87.7 mL、右室駆出率は54.2、53.5、49.5、48.7%。左室拡張末期容積は155.1、154.2、151.2、150.2 mLで、左室駆出率は4条件とも約55%(55.3–55.4%)だった。4条件とも、肺側と体側の正味流量の差は約4×10⁻⁵ L/minで、同じ一拍の流量収支は整合していた。

各条件は、時間刻みの異なる2通り(細かい方が1 msで、本文の値はこちら)で独立に計算した。条件間の差が両方の計算で同じ符号をもち、その大きさが、比較に使う各条件で2通りの刻みの値の違い(絶対値)を合計したものを上回るとき、差の向きを解像したとした。これは数値計算の刻みに対する確認であり、統計的な信頼区間ではない。2つの入力の和からのずれは(併用−抵抗増−張力低下+A入力)で評価した。mPAPでは約−0.022 mmHg、Qpでは約−0.005 L/min、右室駆出率では約−0.06%ポイントで、いずれも刻みによる値の違いの合計(それぞれ約0.081 mmHg、0.015 L/min、0.21%ポイント)より小さかった。

肺抵抗の入力が0.625と0.8の条件の間で、実効負荷の差は約0.146 WUだった。これは、変えた2区間の抵抗の増分を入力係数から計算した値(0.05×0.175÷0.06≈0.146 WU)とほぼ同じである。肺静脈から左房までの区間の実効負荷は、4条件とも約0.504 WUだった。モデル内部で入力と観測量が対応していることを示すにとどまり、独立した検証ではない。

用意済みの2条件で、肺動脈圧と右室を見比べる

採用済みの『HFpEF:左室の硬さと容量負荷』(A)と『HFpEF:肺血管負荷と右室の収縮力低下』(併用)を並べる。平均肺動脈圧の差が小さくても、右室の容積・駆出率や肺血流まで同じだろうか。圧だけを見た予測と、右室のループや出力を合わせた読みを比べてほしい。

異なる入力は、肺動脈側2区間の抵抗倍率(Aは0.625、併用は0.8)と、右室自由壁の能動張力の入力係数(1と0.75)の2つだけで、他の入力は共通である。2つを同時に変えた条件の比較なので、差をどちらか一方の入力だけに帰すことはできない。本文の抵抗増条件と併用条件の比較とは、この点が異なる。

右室PVループの圧は経壁圧で、並べて表示する平均圧は内腔圧である。平均肺動脈圧に、肺側の正味流量Qpと右室駆出率を合わせて読む。左房圧と右房圧は「開く」で確認できる。ここで比べるのは採用presetに保存した周期定常状態であり、本文の1 ms刻みの原計算とは別の保存状態である。画面の値を、本文の数値と同一の計算結果として扱わない。

インタラクティブ・シミュレーション

HFpEF:肺動脈圧が近くても右室は同じか

シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 10件・操作 0件

  • グラフ 1
  • 平均肺動脈圧
  • 平均肺動脈圧
  • 平均左房圧
  • 平均左房圧
  • 平均右房圧
  • 平均右房圧
  • 肺側の正味流量 Qp
  • 肺側の正味流量 Qp
  • 右室駆出率
  • 右室駆出率

シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。

解釈:mPAPと一緒に何を読むか

併用条件のmPAPは抵抗増条件より低かったが、PA–LA実効負荷はほぼ同じで、右室の送り出す血液は少なく、右室は大きく、駆出率は低く、右房圧は高かった。圧負荷の一部が低くなっていても、右室の駆出や循環全体が改善したとは判断できない。この比較では、低いmPAPが少ない拍出と同時に現れている。Qp、右房圧、右室の容積と駆出率を併せて読むことで、その違いが見える。

左房圧が低いことも、それだけで左心機能の改善とは読めない。併用条件では左室拡張末期容積も小さく(154.2対150.2 mL)、左心へ送られる血液が少ない状態と整合する。右室の容積が増す一方で左室の充満が少ないという組合せを、両心をつないだ閉じた循環として読む必要がある。

このモデルの4条件は、臨床の群比較を定量的に再現したものではない。左室駆出率は4条件とも約55%で、平均左房圧は10.6–11.5 mmHgと、Melenovskyらの群平均PAWP 20–22 mmHgより低い。mPAPも20.7–22.3 mmHgで、臨床2群の33、41 mmHgより低い。原著の群分けは心エコーのFACによるもので、モデルの右室駆出率とは別の指標である。モデルが示すのは、同じ閉じた循環の中で入力を一つずつ変えたときの、圧・流量・容積の組合せの向きまでである。

肺動脈圧だけで、右室の負荷や血液を送り出す能力は読めない。平均肺動脈圧は左房圧に実効負荷と肺血流の積を足したものであり、同じ値や同じ差が、異なる組合せから生じ得るからである。モデルでは、肺抵抗の入力を固定して右室の張力を下げた条件で、mPAPが低いにもかかわらず右室の拍出は少なく、右房圧は高かった。臨床の群平均でも、心係数が同程度でありながら、右室機能の異なる群で肺動脈圧が異なっていた。

mPAPを読むときは、下流の圧(臨床ではPAWP)と肺を通る心拍出量(CO)を併せて読み、その圧差とCOから抵抗を求める。心係数(CI)は、COを体表面積で補正した表示として扱う。さらに右房圧と右室の容積・駆出率を加えると、圧の変化が送り出す先の負荷軽減によるのか、送り出す能力の低下に伴うのかを考える手がかりになる。低い、あるいは下がったmPAPは、それだけでは右心の改善を意味しない。

今回の比較で答えられるのは、固定した安静時の4つの動作点で、これらの量がどう組み合わさるかまでである。4点は別々に計算した定常状態であり、同じ患者で時間を追った変化ではない。4点だけから、右室のEes、右室と肺動脈の整合(カップリング)、運動時の予備能を導くことはできない。Borlaugらは、安静時の右室の組織運動が保たれていても運動時の増加が乏しいことを示した。運動中の肺動脈圧–流量関係の傾きも、HFpEF群で対照群より大きかった(中央値7.0対2.0 mmHg/(L/min))。圧と流量の関係は、複数の負荷条件をそろえて初めて見えてくる。 4) また、モデルの平均左房圧はPAWPではない。そのため、ガイドラインの定義に当てはめて、これらの状態を左心疾患に伴う肺高血圧の病型に分類することもしない。 5) 注6

注釈

  1. 注1面積変化率と容積駆出率

    FACは、心エコーで右室の拡張末期と収縮末期の断面積から求める面積変化率であり、容積から求める右室駆出率(RVEF)とは別の指標である。35%は原著が群分けに用いた境界であり、モデルの右室駆出率の閾値としては使わない。

  2. 注2心係数と群平均の読み方

    原著のPVRは、経肺圧較差(mPAP−PAWP)を心拍出量で割った値である。心係数は心拍出量を体表面積で割った値であり、群平均から個々の患者の心拍出量を推定することはしない。また、個々の患者で計算したPVRの群平均は、群平均の圧差を群平均COで割った値と一致するとは限らない。CIが同程度であることも、体表面積を考慮しない絶対COの一致を意味しない。PVRの分母はCOであり、CIで割ると体表面積で指数化した別の量となる。

  3. 注3肺血管コンプライアンスの推定

    Tedfordらの肺血管コンプライアンスは、一回拍出量を肺動脈の脈圧で割った推定値である。肺動脈の一つの区画の局所的な伸展性を直接測定した量ではない。 3)

  4. 注4変えた抵抗係数の範囲

    モデルの原典係数では、対象の2区間の抵抗は倍率1のとき合わせて0.05 mmHg·s/mLである。倍率を0.625から0.8へ上げると、この2区間に直列に加わる抵抗は0.05×0.175÷0.06≈0.15 WUになる(1 WU=0.06 mmHg·s/mL)。これは入力係数から計算した値であり、全肺血管抵抗の測定値でも、観測されるPA–LA実効負荷の変化の予測でもない。

  5. 注5右室自由壁で変えるもの

    右室自由壁の入力は、能動張力モデルの基準張力に掛ける倍率である。Ca²⁺の入力条件、中隔・左室などの能動張力係数、解剖形状を定める入力は固定する。実際に発生する張力、心腔容積、中隔の力学状態は、連成した循環の中で変わり得る。

  6. 注6臨床の肺高血圧分類

    2022年ESC/ERSガイドラインは、安静時のmPAP>20 mmHgかつPAWP>15 mmHgを後毛細血管性肺高血圧とし、PVR≤2 WUを孤立性(IpcPH)、PVR>2 WUを混合性(CpcPH)に分ける。いずれもカテーテルで測ったPAWPとPVRに基づく定義である。

文献

  1. Melenovsky V, et al. Right heart dysfunction in heart failure with preserved ejection fraction. Eur Heart J. 2014. HFpEF 96例を右室FACで層別した後ろ向き研究。Table 1の選択データを本稿の図に用いた。↩1↩2
  2. Rommel KP, et al. Load-independent systolic and diastolic right ventricular function in heart failure with preserved ejection fraction as assessed by resting and handgrip exercise pressure-volume loops. Circ Heart Fail. 2018. 代償期のHFpEFで、安静時の右室収縮性が対照より高かったことを圧–容積ループで報告した。
  3. Tedford RJ, et al. Pulmonary capillary wedge pressure augments right ventricular pulsatile loading. Circulation. 2012. 楔入圧が高いと、同じ肺血管抵抗でも肺動脈コンプライアンスが低い側へ移ることを示した。↩1↩2
  4. Borlaug BA, et al. Abnormal right ventricular-pulmonary artery coupling with exercise in heart failure with preserved ejection fraction. Eur Heart J. 2016. 心エコー同時の侵襲的運動負荷試験で、HFpEFの運動時の右室予備能と肺動脈圧–流量関係を調べた。
  5. Humbert M, et al. 2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension. Eur Respir J. 2022. 肺高血圧の血行動態定義と、左心疾患に伴う肺高血圧の分類を示すガイドライン。