速く打つ心臓は、強く打つ心臓か――心拍数・充満・収縮性
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運動や発熱で心拍数が上がると心拍出量が増える。ペースメーカーの設定を上げれば、低心拍出を改善できるように思える。一方で、HFpEFでは心拍数を上げても拍出が思うように増えないことが、侵襲的な研究で示されている。心拍数を上げることは、心臓を「強く」することなのか。
第6回の問いは、心拍数の増加が心拍出量をどれだけ増やし、その増え方が収縮性とどう関わるか、である。読み終えたときに、心拍数が一回拍出量に作用する二つの経路(心筋の頻度依存性と充満時間)を区別し、CircleHeartの結果がどちらの経路を含み、どちらを含まないかを説明できることを目標にする。
心拍数が一回拍出量に作用する二つの経路
出発点は単純な積である。
CO を L/min、HR を /min、SV を mL で表すなら、左の式は CO = HR × SV / 1,000 となる。右の式は小さな変化に対する近似で、心拍数の増加率がそのまま心拍出量の増加率になるのは、一回拍出量が変わらない場合に限られる。実際には心拍数は一回拍出量に少なくとも二つの経路で作用する。
第一は心筋そのものの頻度依存性である。健常な心筋では、刺激の頻度を上げると一拍あたりの細胞内Ca負荷が増え、発生張力が増す(force–frequency関係、あるいは階段現象)。これは心拍数の変化によって収縮状態そのものが変わる経路で、狭い意味の収縮性の変化に当たる。ヒトの摘出心筋(等尺性標本、刺激頻度15〜180/分)では、非不全心では頻度を上げると張力が増えて150/分付近で最大となったのに対し、末期の拡張型心筋症では60/分を超えると頻度とともに張力が低下し、Ca処理の変化を伴っていた1)。頻度を上げれば常に張力が増えるわけではなく、その関係は心筋の状態と頻度の範囲に依存する。β刺激は心拍数・収縮・弛緩を同時に変え、その増強の仕組みは前負荷や頻度による増強とは異なる2)。
第二は時間の配分である。心拍数が上がると心周期は短くなるが、収縮期よりも拡張期が大きく削られる。充満に使える時間が減れば、弛緩の速さや心室の硬さによっては拡張末期容積が確保できなくなる。これは収縮性ではなく、充満の条件を通じた前負荷の経路である。二つの経路は臨床では同時に働き、しかもβ刺激のように弛緩を速めて第二の経路を緩和する作用も重なる。
臨床の出発点:HFpEFと対照にペーシングを行う
Wachterらは、拡張不全型心不全(HFNEF)17例と対照7例に心房ペーシングを行い、自己心拍、100/分、120/分で左室の圧容積関係をコンダクタンスカテーテルで測った3)。各心拍数でのEesは下大静脈閉塞による負荷系列から求めている。結果は原著の本文とFig. 3・5に示されている図1。
図1:ペーシングで、収縮の指標と拍出・充満はどう動いたか

Wachterら(2009)の本文とFig. 3・5に基づき、変化の方向を独自に整理した表。原図は平均±SEMだが、100/分・120/分での正確な数値は本文・表に印字されていないため、図からの読み取り値は補っていない。心係数(CI)と一回拍出量係数(SVI)は体表面積で補正した量、EDVは補正なし。Eesは各心拍数で下大静脈閉塞による負荷系列から求めた。ペーシングは運動とは異なる。
Wachter et al. Eur Heart J (2009), Results and Figs. 3, 5. DOI:10.1093/eurheartj/ehp341。所見を独自に整理。 · 原著の報告値・所見に基づく独自作図(原図転載なし)
対照では、心拍数を上げても一回拍出量係数と拡張末期容積が保たれ、心係数は心拍数とともに増えた。HFNEFでは、一回拍出量係数と拡張末期容積が下がり、心係数は100/分で小幅に増えた後、120/分では増えなかった。収縮の指標を見ると、dP/dt maxは両群で増え、EesはHFNEFで増え対照では有意に増えなかった。収縮の指標が上がっても、それが拍出の増加に結びつくとは限らないことを示す結果である。著者らは、HFNEFでの拍出増加の鈍さを弛緩障害と関連づけている。
EesがHFNEFで心拍数とともに上がったことは、第2回の注意を思い出させる。Eesは心室レベルの条件付きの量で、心拍数や負荷の範囲によって値が変わる。「Eesが上がったから心筋が強くなった」とも、「拍出が増えないから心筋が弱い」とも、この結果だけからは言えない。
モデルで確かめる:心拍数を70から100/分へ
CircleHeartの保存済み比較では、同じ解剖・同じ総血液量(4,935 mL)・同じ血管設定のまま、心拍数(70/100/分)と左室自由壁・中隔のTref倍率(1.00/1.25、以下「張力が基準/高い」)を組み合わせた4条件を、それぞれ周期定常まで整定させてある。先に、この操作が何を含むかを確認しておく。モデルで心拍数を変えると、心周期の長さに加えて、規定しているCa波形の時間幅も心拍数に応じて変わる。したがってこれは「充満時間だけを変える」操作ではない。一方で、頻度によるCa負荷の増加(force–frequency関係)、β刺激、神経反射による血管の変化は含まれない注1。
インタラクティブ・シミュレーション
心拍数だけを70から100/分へ
Tref倍率は1.00のまま、心拍数を70/分から100/分へ変えた二つの周期定常(表示名「70 bpm・基準張力」と「100 bpm・基準張力」)。主グラフは左室の経壁圧PVループ、補助グラフは一拍内の左室圧と左房圧。ループの幅と位置がどう変わるか、圧波形で一拍の長さと駆出の長さがどう変わるかを見る。数値欄は正味心拍出量と前方一回拍出量。
シナリオ 2件・グラフ 2件・出力 4件・操作 0件
- グラフ 1
- グラフ 2
- 正味CO
- 正味CO
- 前方SV
- 前方SV
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
心拍数を43%上げても、正味心拍出量は5.61から5.76 L/minへ約3%しか増えなかった。一回拍出量が80.1から57.6 mLへ28%減ったからである。ループは幅が狭くなり、右端が大きく左へ移った。一拍の最大容積(この回ではEDVと呼ぶ)は144から118 mLへ減り、最小容積(ESV)は64から60 mLとほとんど変わらなかった。その結果、総EFは55.7%から49.0%へ下がった。Tref倍率は下げていない。それでもEFは下がった。心拍数を変えるとCa波形の時間幅や筋節長・負荷も変わるので、心筋の収縮状態がまったく同じ比較とは言えないが、少なくともこのEFの低下だけから心筋の能力が落ちたと診断することはできない。
このとき充満圧はどうなったか。僧帽弁閉鎖時の左室拡張末期圧は10.9から6.3 mmHgへ、平均左房圧は8.4から7.2 mmHgへ下がった。充満圧が上がったまま容積が小さくなった、という形ではなく、拡張末期の圧と容積がともに小さくなっている。ただし圧は容積や外圧にも依存するので、低い充満圧だけから弛緩による制約がなかったと結論することはできない。この比較では、弛緩の速さ、残っている活性化、充満時間、血液の分布がそれぞれどれだけ寄与したかを分けていない。第3回の張力の比較と同じく、心臓側の設定を変えた結果として目立ったのは、流量の大きな増加よりも充満圧と容積の低下だった。ここでも、心拍出量が増えなかったことから「還流が律速した」と逆算することはできない。
時間の配分も保存出力から確かめられる。大動脈弁を血液が前向きに流れていた時間は、70/分で0.256秒、100/分で0.210秒だった。心周期はそれぞれ0.857秒と0.600秒なので、大動脈弁の前向き流がない時間(等容収縮期・等容弛緩期と充満期の合計)は約0.60秒から約0.39秒へ35%短くなり、駆出時間の短縮(18%)より大きい。拡張期が優先的に削られるという生理と同じ向きだが、この数字は拡張期そのものを測ったものではない。ただしモデルではCa波形の時間幅も同時に変わっているので、この比較だけでEDVの減少を充満時間の短縮だけに帰属させることはできない。
速い心拍で、さらに張力を上げる
インタラクティブ・シミュレーション
100/分のまま、左室張力を上げる
心拍数100/分のまま、左室自由壁と中隔のTref倍率を1.00から1.25へ変えた二つの周期定常(表示名「100 bpm・基準張力」と「100 bpm・高張力」)。主グラフは左室の経壁圧PVループ。張力を上げたとき、ループの幅が広がるのか、ループ全体が左へずれるのかを見る。数値欄は正味心拍出量と前方一回拍出量。
シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 4件・操作 0件
- グラフ 1
- 正味CO
- 正味CO
- 前方SV
- 前方SV
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
100/分のままTref倍率を上げると、最小容積は60から51 mLへ小さくなったが、最大容積も118から109 mLへ小さくなり、一回拍出量は57.6から58.2 mL、正味心拍出量は5.76から5.82 L/minとほとんど変わらなかった。ループは幅を保ったまま左へずれた。同じTref倍率の変更を70/分で行った保存結果(上の実験には表示していない「70 bpm・高張力」の条件)でも、一回拍出量は80.1から81.3 mL、心拍出量は5.61から5.69 L/minの増加にとどまり、最大容積は144から135 mLへ小さくなった。
この一連の比較では、心拍数を上げることもTref倍率を上げることも、それぞれ単独では心拍出量を数%しか増やさず、両方を合わせた場合も5.61から5.82 L/min(約4%増)だった。どちらも心臓側の設定を変える操作だが、心拍数の増加は頻度によるCa負荷の増強を含まず、一回拍出量とEFはむしろ下がっている。閉じた循環の中で結果として目立った変化は、容積と充満圧の低下だった。効果を流量と圧へ量的に配分したわけではない。
臨床データとモデルは、どこまで対応するか
モデルの100/分の結果(一回拍出量とEDVが下がり、心拍出量の増加が小さい)は、Wachterらの対照群の応答(一回拍出量係数とEDVが保たれ、心係数が増える)とは一致しない。むしろ向きとしてはHFNEF群に似ている。しかし、これをモデルがHFNEFの機序を再現したと読んではいけない。原著の著者らはHFNEFでの結果を弛緩障害と関連づけたが、モデルの比較では弛緩の速さ・残っている活性化・充満時間・血液の分布の寄与を分けていない。出力の向きが似ていることから、同じ機序によるとも、違う機序によるとも決められない。
対照群との不一致の候補としては、モデルにforce–frequency関係によるCa負荷の増加がないこと、ペーシング中の静脈トーンや血管の調節がないこと、モデルの基準状態がこの研究の対照群に合わせて較正されていないこと、が挙げられる。どれがどの程度寄与するかは、この比較からは決められない。モデルの心拍数の範囲は100/分までで、原著の120/分の結果については再現を論じることができない。
臨床の判断に戻すと、心拍数を上げたときの拍出の増え方は、心筋の頻度依存性、充満に使える時間と弛緩の速さ、そして循環が充満圧を保てるかの三つに依存する。EFやEesが上がったか下がったかだけでは、そのどれが働いたかは分からない。心拍数を操作する治療の是非は、このモデルの比較ではなく臨床研究で判断されるべきものである。
確認
確認問題
モデルでTref倍率を変えずに心拍数を70から100/分へ上げたら、総EFが56%から49%へ下がった。最も適切な解釈はどれか。
- 頻脈で心筋の収縮性が低下した。
- 最小容積(ESV)はほぼ同じで、最大容積(EDV)が大きく減ったためにEFが下がった。このEFの低下だけから心筋の能力低下を診断することはできない。
- force–frequency関係が逆転した。
- 充満圧が上がったため。
答えと解説
正解: 最小容積(ESV)はほぼ同じで、最大容積(EDV)が大きく減ったためにEFが下がった。このEFの低下だけから心筋の能力低下を診断することはできない。
最大容積は144から118 mL、最小容積は64から60 mL。EFの分母と分子の両方が変わった結果である。モデルにforce–frequency関係は含まれず、充満圧はむしろ下がった。一方で、心拍数とともにCa波形の時間幅や筋節長・負荷も変わるので、収縮状態がまったく同じ比較ではない。言えるのは、Tref倍率を下げなくてもEFは下がりうる、ということである。
確認問題
Wachterらの研究で、HFNEF群ではペーシングによりEesが上がったのに、一回拍出量係数は下がった。この組み合わせから言えることはどれか。
- Eesの上昇は心筋が強くなった直接の証拠である。
- 一回拍出量の低下は収縮性の低下を意味する。
- 収縮の指標の上昇と拍出の増加は同義ではなく、充満(EDV)の制約が拍出を決めうる。
- 心拍数は一回拍出量に影響しない。
答えと解説
正解: 収縮の指標の上昇と拍出の増加は同義ではなく、充満(EDV)の制約が拍出を決めうる。
HFNEF群ではEDVが下がっており、一回拍出量の低下は充満の側の制約と整合する。Eesは心拍数や負荷の範囲に依存する心室レベルの量で、その上昇を心筋の性質の改善と直接読むことはできない。
注釈
- 注1心拍数の比較条件と、モデルの心拍数操作の意味↩
CircleHeart standard-74の保存済みsnapshotで、心拍数(入力値70/100/分)と左室自由壁・中隔のTref倍率(1.00/1.25)を組み合わせた4条件。総血液量4,935 mL、血管の設定、弁、右室自由壁のTref倍率(1.00)は共通。Readerの表示名は「70 bpm・基準張力」「100 bpm・基準張力」「70 bpm・高張力」「100 bpm・高張力」。容積は一拍の最大・最小の左室容積、総EFは(最大−最小)/最大。左室拡張末期圧は僧帽弁閉鎖時の絶対圧で、容積と厳密に同じ時相の値ではない。駆出時間は大動脈弁の前向きの流れがあった時間である。
モデルのCa波形は心拍数に応じた規則で時間幅が変わるが、細胞内Ca処理を解いているわけではなく、頻度に応じたCa負荷の増減や頻度依存の弛緩促進を再現するものではない。心拍数の設定範囲は40〜100/分で、それを超える心拍数には結果を延ばさない。
文献
- Pieske B et al. Alterations in intracellular calcium handling associated with the inverse force-frequency relation in human dilated cardiomyopathy. Circulation. 1995;92:1169–1178. ヒト摘出心筋(非不全5心、末期拡張型心筋症7心)の等尺性標本。刺激頻度と張力・Ca信号。詳細抄録で確認、全文未読。臨床の運動応答を直接説明する定量モデルではない。↩
- Pieske B et al. Ca2+-dependent and Ca2+-independent regulation of contractility in isolated human myocardium. Basic Res Cardiol. 1997;92 Suppl 1:75–86. ヒト摘出心筋で前負荷・刺激頻度・受容体刺激による収縮増強の機構を比較。抄録で確認、全文未読。↩
- Wachter R et al. Blunted frequency-dependent upregulation of cardiac output is related to impaired relaxation in diastolic heart failure. Eur Heart J. 2009;30:3027–3036. HFNEF 17例、対照7例。心房ペーシングと侵襲的PV解析。全文・Results・Fig. 3/5と利用条件を確認。100/120/分での正確な数値系列は本文・表に印字されていない。ベースライン表は中央値(IQR)で、図の平均±SEM系列とは混ぜない。↩