拡張時間のために、心拍数は低いほどよいのか

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拡張期が長ければ、左室はゆっくり弛緩し、十分に血液を受け入れられる。だとすれば、拡張機能が悪い患者ほど心拍数は低い方がよいのだろうか。一拍に使える時間だけを考えると自然な推論だが、循環が必要とするのは一分あたりの流量である。本稿では、一回拍出量(SV)、充満圧、心房と心室の時間関係を同時に追い、心拍数を上げると左房圧がかえって下がる場合があることを、臨床研究とモデル実験で確かめる。読み終えたときに、心拍数を変えたとき心拍出量と左房圧がどう動くかを、一回量、充満の終わりの容積、受動圧–容積関係を区別しながら説明できるようにしたい。

心拍出量は、回数と一回量の積で決まる

心拍数(HR)が上がると、一拍に使える時間は短くなり、SVは減りやすい。しかし心拍出量(CO)は回数と一回量の積なので、SVの減り方がHRの増え方より小さければ、COは増える。まずこの収支を押さえておく。

CO[L/min]=HR[/min]×SV[mL]1000,CO100CO60=10060SV100SV60CO\,[\mathrm{L/min}]=\frac{HR\,[/\mathrm{min}]\times SV\,[\mathrm{mL}]}{1000},\qquad \frac{CO_{100}}{CO_{60}}=\frac{100}{60}\frac{SV_{100}}{SV_{60}}

右の式から、HRを60から100 bpmへ上げたときにCOが増える条件は、SVが元の60%(=60/100)を上回ることだと分かる。これは定義から出る閾値であり、患者データやシミュレーションの結果ではない。また、COを保てたとしても、そのために高い左房圧が必要なら、充満の負担が軽くなったとは言えない。COと並べて、それを実現した充満圧を読む必要がある。

逆向きに考えると、同じCOを保とうとすれば、徐脈ほど大きなSVが要る。左室の受動圧–容積関係は非線形で、容積が大きい側ほど、同じ容積を加えるのに必要な圧の上昇が大きい。ただし受動曲線の横軸は心腔の絶対容積であり、一拍に出入りする容積の差であるSVそのものではない。大きなSVを送るために左室がより大きな容積まで充満するなら、同じ静的な受動曲線の上では、充満の終わりの圧は高くなり得る。実際の循環ではCOは固定されず、拡張時間、一回量、充満の終わりの容積が一緒に変わる。

長い拡張期は、何を待つ時間なのか

心筋の弛緩には、細胞内Ca濃度の低下、筋フィラメントの活性化の解除、クロスブリッジによる力の消退が関わる。左室圧が下がって左房圧を下回ると僧帽弁が開き、充満が始まる。心拍数が上がって一拍が短くなれば、弛緩と充満に割り当てられる時間も短くなる。ただし、心筋の弛緩の速さ自体も心拍数や負荷に応じて変わるので、心拍数の変更は単に時計を速める操作ではない。1)

圧波形では、大動脈弁閉鎖から僧帽弁開放までの等容弛緩時間(IVRT)が弛緩の目安としてよく使われる。しかしIVRTは、左室圧が下がる速さだけでなく、左室圧が追いつくべき左房圧の高さにも依存する。左房圧が高ければ、左室圧が十分に下がる前に弁が開き、IVRTは短くなる。IVRTの短縮を、そのまま弛緩の改善と読むことはできない。

同じHRでも、早期に多くの血液が流れ込める状態と、心房収縮まで充満が続く状態とでは、短くなった拡張期で失われるものの意味が違う。HRが上がってE波とA波が近づいたときは、二つのピークの大小だけでなく、流量波形の面積と、左房・左室の圧差を合わせて見る必要がある。ピークが融合すれば、E/Aという一つの比に分けること自体が難しくなる。

心拍数を上げて、左房圧が下がる場合もある

臨床の観察から始める。van Loonらは、心房細動アブレーションを受ける75例を洞調律で測定し、心房ペーシングの速度と左房圧の関係を調べた。個々の患者で左房圧が最も低くなった速度を選ぶと、その中央値は100 bpmだった。各患者の平均左房圧の集団中央値は、洞調律時の12.8から10.4 mmHgへ低下した。これは全員にとって100 bpmが最適だったという意味ではない。対象の65%はH₂FPEFスコアが高かったが、全例を確定したHFpEFとして組み入れた研究でもない。2)

図1は、原著が患者の同時記録とCircAdapt計算を並べた図である。4列は左から54、80、100、120 bpmで、上2段が患者1例、下3段が原著のシミュレーションを表す。患者例では、80 bpmで左房圧が下がり、120 bpmでは大きく上がっている。心房ペーシングを速めると房室伝導も変わるので、各列では圧の高さだけでなく、灰色帯で示すPR間隔と、a波が左室の周期のどこに現れるかを比べることが、次に述べる時間関係を読む手掛かりになる。

図1:心拍数だけでなく、心房収縮の時点も変わる

van Loonらの原著Fig.4。54、80、100、120 bpmの4列。上2段は患者1例の冠静脈洞電位・ECGと左房圧。下3段は原著CircAdaptの左房・左室圧、容積、僧帽弁・大動脈流量。患者例の平均左房圧は順に8.2、6.6、8.0、17.2 mmHg。灰色帯はPR間隔を表す。

van Loon et al.(2024)Fig.4を改変せず転載。上2段は患者1例の測定、下3段は原著のCircAdaptシミュレーションであり、本記事の実験結果ではない。集団の中央値とこの患者例の数値は別である。最下段のAo流量を負に描くのは原図の表示方向による。2)

© The Author(s) 2024. Published by Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology. van Loon et al., European Heart Journal 45:4953–4964, Fig.4. doi:10.1093/eurheartj/ehae718. 原図に改変なし。 · CC BY 4.0

心房収縮が僧帽弁の開いている時期に十分重なれば、その力は前方への充満を助ける。心室がまだ高い圧にあって弁が閉じていれば、同じ力は左房圧の上昇として現れやすい。原著は頻脈に伴うPR延長を含めてこの関係を検討した。これに対し、次の実験では心房–心室の活性化間隔を120 msに固定しているので、原著の高心拍数側の機序をそのまま追試する比較にはならない。

実験:同じ左室壁のまま、心拍数だけを変える

実験では、左室自由壁・中隔の受動係数を1.33に固定し、HR 60 bpmと100 bpmの二条件を比べる。総血液量4,935 mLとその他の設定は共通とし、各条件で周期定常に達した一拍を読む。同じ係数で70・85 bpmも計算してあり、4段階の結果は後の図で示す。基準の受動係数1.04でも60と100 bpmを計算し、本文で補足する。このモデルでは、心房–心室の活性化間隔は120 msに固定され、心室のCa波形の立ち上がりと減衰の幅はHRに応じて変わる。したがってこの比較は、拡張時間だけを短くした操作でも、原著のPR延長を再現した操作でもない。HRの設定上限は100 bpmなので、この範囲での傾向を調べるにとどめ、患者の最適HRを決める目的には使わない。注1

HRを上げると充満に使える時間は短くなるが、一拍に必要な量も変わる。確実に予測できるのは、SVが元の60%を上回ればCOが増えることだけである。左房圧がどちらへ動くかは、容積、弛緩、房室の時間関係を含む循環全体の結果として確かめる必要がある。

インタラクティブ・シミュレーション

同じ心室条件で、心拍数60と100を比べる

シナリオ 2件・グラフ 3件・出力 14件・操作 0件

  • 僧帽弁の流量
  • 左房圧
  • 左室PV(経壁圧)
  • 平均左房圧
  • 平均左房圧
  • 有効CO
  • 有効CO
  • 一回前方拍出量
  • 一回前方拍出量
  • MV閉鎖時LV容積
  • MV閉鎖時LV容積
  • IVRT(弁流量イベント)
  • IVRT(弁流量イベント)
  • E/A(体積流量比)
  • E/A(体積流量比)
  • E波減速時間(体積流量80–40%)
  • E波減速時間(体積流量80–40%)

シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。

僧帽弁の流量波形では、100 bpmで拡張期がどれだけ短くなり、E波とA波がどれだけ近づいたかが見える。数値では、SVが元の何割残ったかを求めてCOの変化が上の式と合うかを確かめ、そのCOがどの平均左房圧で実現したかを並べる。圧波形ではIVRTと僧帽弁が開いている時間を、左室PVでは一回量にあたる容積方向の幅と充満の終点の位置を比べられる。

60から100 bpmでは、大動脈への一回前方拍出量が89.3から57.3 mLへ減った。元の64.2%が残り、60%の閾値を上回ったので、COは約7%増えた(100/60×0.642≈1.07)。平均左房圧は10.3から7.6 mmHgへ下がった。僧帽弁閉鎖時の左室容積も152.6から117.3 mLへ減っている。左室は一拍ごとに送り出す量が少なくなり、より小さな容積で充満を終えていた。同じ静的な受動圧–容積関係を仮定すれば、より小さい充満終了時容積は低い経壁圧と対応する。ただし、この比較は今回の平均左房圧の低下をその機序だけに帰属させるものではない。受動係数を変えずに、HRとそれに伴う条件を変えたときの循環全体の応答として左房圧が下がった、というのが観察である。

一方、IVRTは60 bpmで90 ms、100 bpmで86 msで、左房圧ほど大きくは変わらなかった。体積流量のE/Aは60 bpmで0.956だったが、100 bpmではE波とA波の分離したピークを確定できなかった。数値が出ないことは、E波やA波がゼロという意味でも、充満が正常化したという意味でもない。比が読めなくなった条件ほど、流量波形と同時圧を直接確かめる必要がある。注1

二つの端の間はどうなっているか。図2は、同じ受動係数1.33で60・70・85・100 bpmの4条件を計算した結果である。結果は点だけで、点を結ぶ線は目で追うための補助にすぎない。左の平均左房圧はHRとともに下がり続け、右のCOは増え幅を縮めながら増えた。調べた範囲では、左房圧が再び上がるU字形は現れなかった。点の間や100 bpmより先の応答は計算しておらず、この図から最適HRは読み取れない。70・85 bpmのIVRTは90 msで、85 bpmでもE/Aの分離したピークは確定できなかった。基準の受動係数1.04でも向きは同じで、60から100 bpmで平均左房圧は9.3から7.2 mmHgへ下がり、COは5.43から5.76 L/minへ増えた。

図2:4つの心拍数で平均左房圧と拍出量を比較する

横軸をHR 60、70、85、100 bpmで共通にした2面の点図。平均左房圧は順に10.30、9.18、8.12、7.64 mmHg、左室有効拍出量は5.36、5.55、5.69、5.73 L/min。左室自由壁・中隔の受動係数はいずれも1.33。

E2の保存済み計算値。左室自由壁と中隔の受動係数をともに1.33としたHR 60、70、85、100 bpmの4条件だけを示す。左は左房腔内圧の周期平均、右は左室有効拍出量である。点を結ぶ線は見やすさのための補助線で、未計算の心拍数における反応を予測しない。このモデルではHRに伴って所定の心室Ca入力幅も変わるため、弛緩だけを単独操作した比較ではない。最適心拍数や患者での応答を示す図ではない。

本稿のシミュレーションE2の保存値から独自作図。4条件の値を直接抽出し、新たな数値実験は行っていない。

調べた範囲では、拡張期が短くなってもCOは増え、平均左房圧は下がった。この結果は、一回量と充満終了時の容積が小さくなるという見方と整合する。ただし、拡張時間の短縮、心室Ca波形の変化、容積の変化がそれぞれどれだけ寄与したかを、この比較だけから分けることはできない。ただし100 bpmは調べた範囲の端であり、COの増え幅は縮んでいたものの、その先で左房圧が上がるかどうかは分からない。房室間隔を固定しているので原著のPR延長を含む高心拍数側の機序は検証できず、COや平均血圧も一定には保っていない。van Loonらの患者例のように高いHRで左房圧が上がる曲線がここに現れない理由は、HRの範囲、房室の時間関係、循環に課した条件に分けて考える必要がある。

臨床試験が同じ答えを出さない理由

では、心拍数を上げる治療は患者に役立つのか。myPACE試験は、すでにペースメーカーがあり心室同期性を保つ条件の、無症候の段階も含む患者で、安静時の下限心拍数を個別に高める戦略を通常の60 bpm設定と比較した。1年間で生活の質などが改善した。既存デバイスを用いた持続的な設定変更であり、新規植込みや運動中だけの頻脈化を検証した試験ではない。3)

一方RAPID-HF試験は、変時性不全のあるHFpEF患者にペースメーカーを新規植込みし、運動時のrate-adaptive pacingをクロスオーバーで比較した。運動時の心拍数は増えたが一回拍出量が減り、心拍出量や運動能力は改善しなかった。原著のTable 2がSVとCOの対応を、Fig.3が運動能力などの結果を示す。安静時の下限設定と運動時の心拍応答は、異なる介入である。4)

したがって、どちらの結果も「速い方がよい」「遅い方がよい」という全患者への命題には変えられない。対象、心房と心室の同期、運動か安静か、SVがどう変わったかをそろえて読む必要がある。薬剤で心拍数を変える場合は、血圧、収縮、弛緩への作用も加わるので、モデルのHR入力だけを変えた操作と同じ介入にもならない。

「長く待てる」ことと「低い圧で受け入れられる」こと

冒頭の問いに戻る。拡張時間だけを見れば心拍数は低い方がよく見えるが、一回量と充満の終わりの容積は拡張時間と一緒に変わる。同じCOを保とうとすれば、徐脈では一拍に大きな量を送る必要があり、そのために左室がより大きな容積まで充満するなら、静的な受動曲線の上ではその圧は高くなり得る。モデルでは、HRを60から100 bpmへ上げるとSVは元の約64%に減ったがCOは増え、充満終了時の容積は小さくなり、平均左房圧は下がった。ただし、これらの変化を拡張時間、Ca波形、容積の寄与に分けたわけではない。ただしこれは、100 bpmまでの範囲、固定した房室間隔、HRとともに変わる心室Ca波形という条件の下での結果であり、最適な心拍数を示すものではない。心拍数を評価するときは、拡張時間、SV、CO、左房圧に心房収縮のタイミングを加えて並べると、「長く待てる」ことと「必要な血液を低い圧で受け入れられる」ことの違いを説明できる。

拡張能と弛緩|記事と実験のガイド連載全8回の一覧と、実験の読み方。CircleHeart 次へ|充満圧が下がったのは、心筋がよくなったからか第8回へ進む。CircleHeart

注釈

  1. 注1HR変更の生理的意味と測定の範囲↩1↩2

    このモデルでは心室の処方Ca波形の立ち上がり・減衰幅がHRに依存し、心房のCaパラメータはHRで変わらない。AV遅延は120 ms固定である。したがって周期だけを縮めた比較でも、実際のCa循環やPR延長を測った比較でもない。受動係数は平衡時の受動応力と粘弾性の振幅を同時に変えるため、HRとの交互作用を純粋な弛緩速度の差とは解釈しない。この実験ではτを独立した指標として示していないため、IVRTをτの代用とせず、圧波形と弁イベントを用いる。E/Aは体積流量に基づく。受動係数1.33のE/Aは70 bpmで0.925だった。設定変更直後の過渡過程、心房細動、臨床試験の症状・運動能力の変化は、この定常比較の対象に含まれない。

    受動係数1.33のE波減速時間(下降部の80–40%を直線でゼロ流量まで延長し、ピークから測る)はHR60・70・85 bpmで139・132・131 msで、100 bpmでは次の心房活性化の前に減速区間を確定できず欠測となった。1.04でも100 bpmのE/Aと減速時間は欠測である。いずれも測定条件を満たさない値をゼロで補わない。

文献

  1. Bassani et al. Relaxation in rabbit and rat cardiac cells: species-dependent differences in cellular mechanisms. J Physiol. 1994;476:279–293. Ca除去と弛緩の細胞レベルの研究。ヒトの寄与率を与える研究ではない。
  2. van Loon et al. Accelerated atrial pacing reduces left-heart filling pressure: a combined clinical-computational study. Eur Heart J. 2024;45:4953–4964. doi:10.1093/eurheartj/ehae718. Fig.3:集団の反応。Fig.4:患者例とCircAdapt。↩1↩2
  3. Infeld et al. Effect of Personalized Accelerated Pacing on Quality of Life, Physical Activity, and Atrial Fibrillation in Patients With Preclinical and Overt Heart Failure With Preserved Ejection Fraction: The myPACE Randomized Clinical Trial. JAMA Cardiol. 2023;8:213–221. doi:10.1001/jamacardio.2022.5320.
  4. Reddy et al. Rate-Adaptive Atrial Pacing for Heart Failure With Preserved Ejection Fraction: The RAPID-HF Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023;329:801–809. doi:10.1001/jama.2023.0675. Table 2:SVとCO。Fig.3:VO₂、生活の質。