右室の収縮性をどう切り分けるか――肺循環との釣り合いと左室への波及

CircleHeart公式

公開

目次

肺高血圧の患者で右室が拡大し、右室EFが下がっている。原因は肺血管の負荷が大きいことなのか、右室の心筋そのものが弱いことなのか。そして右室が弱ると、左室はどう影響を受けるのか。左室について積み上げてきた枠組みは、右室にどこまで使えるだろうか。

第7回の問いは、右室の収縮性を肺循環の負荷から切り分けられるか、そして右室の変化が左室にどう伝わるか、である。読み終えたときに、右室と肺循環の連関を比 Ees/Ea で表し、肺血管の負荷の指標が近くても右室の性質が違いうることを原著データで確認し、右室の張力変化が左室の充満に及ぶ経路を二つ挙げられることを目標にする。

右室は左室の小型版ではない

右室の自由壁は薄く、断面は左室に巻きつく三日月形をしている。平常では肺動脈圧が低いので、右室は小さな圧で大きな容積を送り出す。第1回の薄肉球の式 P_tm = 2σh/r が示すのは、同じ壁応力から生じる圧が壁厚と半径の比 h/r で決まるということである。壁の薄さだけでは結論は出ないし、三日月形で中隔と左室からの力も受ける右室を一つの球として扱うこともできない。形状と共有する壁を含めた力の釣り合いが、右室の壁応力を圧に変える。右室と左室は中隔を共有し、同じ心膜に包まれているので、一方の圧や容積の変化は中隔の位置と形を通じて他方に直接伝わる。CircleHeartの心室がTriSeg型の三壁構造をとるのは、この共有壁を力の釣り合いとして扱うためである1)

左右の心室の結びつきには二つの経路がある。一つは直列の経路で、右室の拍出が肺循環を通って左房に届き、左室の充満になる。周期定常では、第3回で見たように左右の平均拍出は等しい。もう一つは直接の機械的な経路で、中隔と心膜を介して、同じ拍のうちに一方の心室の圧・容積が他方の拡張や収縮の条件を変える。開胸した仔豚で左右の圧容積を同時に測った実験では、大動脈を部分閉塞して左室圧を上げると右室のEesも上がり、肺動脈を部分閉塞して右室を拡大させると左室の拡張期のコンプライアンスが下がった。二つの現象では心膜への依存の仕方が異なっていた2)。摘出した両心室の作動標本で心膜の有無を比べた研究もある3)。右室のEesが変わったことを、右室心筋そのものの変化とすぐに読んではいけない理由がここにある。

右室と肺循環の連関:Ees/Ea

第2回の左室の式は、ESPVRを直線で近似できれば右室にもそのまま使える。右室のEesは右室の収縮末期圧容積関係の傾き、Eaは収縮末期圧を一回拍出量で割った肺循環側の実効エラスタンスである。二つの線の交点が収縮末期の点を決め、その比が右室と肺循環の連関の度合いを表す。

EesEa=SVESVV0,EF=11+Ea/Ees(1V0EDV)\frac{E_{\mathrm{es}}}{E_{a}} = \frac{\mathrm{SV}}{\mathrm{ESV} - V_{0}}, \qquad \mathrm{EF} = \frac{1}{1 + E_{a}/E_{\mathrm{es}}}\left(1 - \frac{V_{0}}{\mathrm{EDV}}\right)

左の式は、Ees(ESV − V_0) = P_es = Ea·SV を並べ替えただけのものである。V_0 が無視できるなら、Ees/Ea は容積だけの比 SV/ESV に近づく。ただしこれは線形のESPVRと V_0 ≈ 0 という仮定を置いた場合の代数であり、SV/ESV を測ればEesとEaの比が分かるという保証ではない。また、比が同じでも、EesとEaの絶対値が同じとは限らない。これも第2回と同じである。

臨床の出発点:同程度の肺血管抵抗、異なる右室

Tedfordらは、強皮症に伴う肺動脈性肺高血圧(SSc-PAH)の右室機能が悪い理由が、肺血管の負荷にあるのか右室の心筋にあるのかを調べた4)。血管側のデータは282例で解析されたが、右室の圧容積解析はIPAH 5例とSSc-PAH 7例の小さな部分集団である。Eesはバルサルバ第2相で前負荷が下がる間の収縮末期点から求め、Eaは収縮末期圧を一回拍出量で割った。

この部分集団では、肺血管抵抗(7.9対7.0 Wood単位)、Ea(1.2対0.9 mmHg/mL)に有意差はなかった。一方、EesはIPAHで2.3、SSc-PAHで0.8 mmHg/mLと大きく違い、Ees/Eaも2.1対1.0だった図1。右室EFは43対47%で有意差がなかった。

図1:右室のEes・Ea・Ees/Eaを分けて読む

IPAHとSSc-PAHの比較。Eesは2.3対0.8 mmHg/mL、Eaは1.2対0.9 mmHg/mL、Ees/Eaは2.1対1.0。5例対7例の平均と標準偏差。

Tedfordら(2013)Table 2の値(平均±SD)を独自に作図。IPAH 5例、SSc-PAH 7例。Eesはバルサルバ負荷時の収縮末期点の傾き、Eaは収縮末期圧/一回拍出量。Ees/Eaは各患者の比の群平均で、群平均Eesを群平均Eaで割った値ではない。Eaの差が有意でないことは、負荷が同一であることの証明ではない。

Tedford et al. Circ Heart Fail (2013), Table 2. DOI:10.1161/CIRCHEARTFAILURE.112.000008。数値から独自作図。 · 原著の報告値・所見に基づく独自作図(原図転載なし)

この表は二つのことを示している。第一に、肺血管の負荷の指標が近くても、右室の性質は違いうる。SSc-PAHの右室機能の悪さは、肺血管だけでは説明しにくい。第二に、右室EFはこの違いを捉えなかった。ここで注意したいのは、この研究ではEes/Ea自体が2.1対1.0と大きく違っていたことである。同じV0/EDVと線形近似を仮定すれば、比がこれだけ違えばEFにも差が出ると予想される。それでもEFが近かった理由を、EesとEaの相殺だけで説明することはできない。第2回の式にはV0/EDV、圧と容積の定義、線形近似が含まれており、群ごとの集計値だけからそれぞれの寄与を同定することもできない。各群5例と7例の小さな観察研究であり、有意差がないことは同等であることを意味しない。

モデルで確かめる:右室の張力を下げる

CircleHeartの保存済み比較では、同じ解剖・同じ総血液量・心拍数70/分のまま、右室自由壁のTref倍率(1.00/0.75、以下「右室の張力が基準/低い」)と肺血管抵抗の入力係数(0.625/0.8)を組み合わせた4条件を、それぞれ周期定常まで整定させてある。左室自由壁と中隔のTref倍率は4条件とも1.00で共通である。固定したのはTref倍率であり、左室や中隔で実際に発生する張力の時間経過まで固定したわけではない。肺血管抵抗の入力を上げた条件でも、有効肺血管抵抗の出力は約12%高いだけで、平均肺動脈圧は17〜19 mmHgにとどまり、肺高血圧の患者の負荷には遠く及ばない注1。まず肺血管抵抗の入力を基準のまま、右室自由壁のTref倍率だけを下げる。

インタラクティブ・シミュレーション

右室自由壁のTref倍率だけを下げる

肺血管抵抗の入力係数は0.625のまま、右室自由壁のTref倍率を0.75と1.00で比べた二つの周期定常(表示名「RV低張力・基準肺抵抗」と「RV基準張力・基準肺抵抗」)。左室自由壁と中隔のTref倍率は両条件とも1.00。主グラフは右室の経壁圧PVループ、補助グラフは左室の経壁圧PVループ。数値欄は正味心拍出量と右室拡張末期容積(三尖弁閉鎖時)。

シナリオ 2件・グラフ 2件・出力 4件・操作 0件

  • グラフ 1
  • グラフ 2
  • 正味CO
  • 正味CO
  • 右室EDV
  • 右室EDV

シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。

右室の張力を下げると、右室の拡張末期容積は141から151 mLへ、収縮末期容積は61から73 mLへ大きくなり、右室EFは56.9%から52.0%へ下がった。それでも右室の一回拍出量は80.1から78.6 mLへとわずかしか減らず、正味心拍出量は5.61から5.50 L/min(約2%減)だった。Tref倍率の低い右室は、より大きな容積で動くことで一回拍出量をほぼ保った。長さ依存性活性化による補償と整合的な解釈だが、右室の筋節長や活性化を成分ごとに観測したわけではなく、形状・負荷・中隔を介した相互作用も同時に変わっているので、その寄与を分けて示したわけではない。平均右房圧は3.1から3.2 mmHgへのわずかな上昇にとどまった。

左室の側では、平均左房圧が8.4から8.0 mmHgへ、左室の最大容積が144から141 mLへ小さくなった。左室自由壁と中隔のTref倍率は変えていないので、これは右室自由壁のTref倍率の変更が左室に及んだ結果である。経路としては、右室の拍出がわずかに減って肺循環側の充満が下がる直列の経路と、拡大した右室が中隔と心膜を介して左室の拡張を妨げる直接の経路の両方がありうる。この一組の比較では、二つの寄与を分けることはできない。

連関の比の近似も、保存値から算術的に求めておく。右室の一回拍出量/収縮末期容積は、張力が基準で80.1/60.6≈1.32、低い張力で78.6/72.7≈1.08だった。Tref倍率を下げると比は小さくなり、第2回の式の予想と向きがそろう。ただしこの比較では右室の負荷系列を解析しておらず、線形ESPVRのEesや V_0 を求めていないし、V_0 ≈ 0 が成り立つことも確かめていない。したがってこの容積比をモデルの右室Ees/Eaと呼ぶことはできず、Tedfordらの値(2.1や1.0)と数値を比べることもできない。また容積比SV/ESVと右室EFは同じ容積から計算した代数的に従属する量なので、二つがそろって下がったことを独立な二つの証拠とは数えない。

肺血管抵抗の入力を上げた条件でも、Tref倍率の違いの現れ方はほぼ同じだった。基準のTref倍率では右室拡張末期容積142 mL・右室EF 56.0%・正味心拍出量5.58 L/min、低いTref倍率では153 mL・51.0%・5.47 L/minである。肺血管抵抗の入力係数を0.625から0.8へ(28%)上げると、有効肺血管抵抗の出力は約1.19から約1.33 mmHg·min/Lへ約12%増えた。この操作そのものの影響は、どちらのTref倍率でも右室容積の1〜2 mLの増加と心拍出量の0.02〜0.03 L/minの減少にとどまった。この軽い負荷の範囲では、右室自由壁のTref倍率の違いの方が大きく現れる。

臨床データとモデルは、どこまで対応するか

モデルの比較は、「同じ肺循環の設定のもとで右室自由壁のTref倍率が違えば、右室の容積・EF・容積比SV/ESVが違う」という機序の説明である。Tedfordらの患者群を再現したものではない。PAHの右室は長期の圧負荷で肥大・拡大しており、肺血管抵抗はモデルの設定よりはるかに高い。モデルの有効肺血管抵抗は平均肺動脈圧と平均肺静脈圧の差を肺血流で割った出力で、臨床のPVR(平均肺動脈圧と肺動脈楔入圧の差を心拍出量で割る)とは測る区画の境界も同じではない。SSc-PAHの右室機能低下の原因(心筋の線維化や炎症など)を、一つの張力倍率に置き換えることもできない。臨床のEesはバルサルバで負荷を変えた過渡的な系列から求めたもので、モデルの周期定常の比較とは手順が違う。

それでも、臨床の判断に役立つ読み方は残る。右室の拡大と右室EFの低下は、肺血管の負荷の増加でも右室の張力の低下でも起こりうる。両者を分けるには、負荷の指標(肺血管抵抗やEa)と右室の性質の指標(負荷を変えて求めたEes)を別々に得る必要がある。右室の変化は、直列の経路と直接の経路の両方で左室の充満を変えうるので、左室の充満圧や容積の変化を左室の問題だけで読まないことも大切である。

確認

確認問題

Tedfordらの圧容積解析では、IPAHとSSc-PAHでEaと肺血管抵抗に有意差がなく、Eesは大きく異なり、右室EFには有意差がなかった。この結果から言えることはどれか。

  1. 右室EFが同程度なので、二群の右室の収縮性は同程度である。
  2. 肺血管の負荷の指標が近くても右室の性質は違いうる。右室EFはその違いを映さないことがある。
  3. Eaに有意差がないので、二群の負荷は完全に同じである。
  4. 群平均のEesを群平均のEaで割れば、表のEes/Eaが得られる。
答えと解説

正解: 肺血管の負荷の指標が近くても右室の性質は違いうる。右室EFはその違いを映さないことがある。

この研究ではEes/Eaそのものが2.1対1.0と違っていたのに、右室EFには有意差がなかった。EFは線形近似のもとでもEa/EesだけでなくV0/EDVや圧・容積の定義に依存し、集計値からその寄与は分けられない。いずれにせよ、EFだけでは右室の性質の違いを捉えられない場合がある。有意差がないことは同一の証明ではない。表のEes/Eaは各患者の比の平均で、平均どうしの比とは一般に一致しない。

確認問題

モデルで右室自由壁のTref倍率だけを下げると、左房圧と左室の最大容積が小さくなった。左室自由壁と中隔のTref倍率は変えていない。この変化の経路として正しいのはどれか。

  1. 左室自由壁と中隔のTref倍率が下がったため。
  2. 直列の経路(肺循環を介した充満の変化)と、中隔・心膜を介した直接の経路の両方がありうる。この一組の比較ではどちらの寄与かを分けられない。
  3. 直列の経路だけで説明できる。
  4. 肺血管抵抗が上がったため。
答えと解説

正解: 直列の経路(肺循環を介した充満の変化)と、中隔・心膜を介した直接の経路の両方がありうる。この一組の比較ではどちらの寄与かを分けられない。

左室自由壁と中隔のTref倍率は共通で、肺血管抵抗の入力も同じである(左室で実際に発生する張力まで同じとは限らない)。右室の変化は、拍出量の変化を通じた直列の経路と、拡大した右室が中隔・心膜を介して左室の拡張に影響する直接の経路の両方で左室に及びうる。分離するには、それぞれの経路を遮断・固定した比較が別に必要になる。

注釈

  1. 注1右室の比較条件

    CircleHeart standard-74の保存済みsnapshotで、右室自由壁のTref倍率(1.00と0.75)と、肺血管抵抗の入力係数(0.625と0.8)を組み合わせた4条件。左室自由壁と中隔のTref倍率(1.00)、心拍数70/分、総血液量4,935 mL、体循環の設定は共通。Readerの表示名は「RV基準張力・基準肺抵抗」「RV低張力・基準肺抵抗」「RV基準張力・高肺抵抗」「RV低張力・高肺抵抗」。有効肺血管抵抗の出力(単位mmHg·min/L、Wood単位と同じ次元)は、拍平均の肺動脈圧と肺静脈圧の差を肺回路の平均流量で割った値で、基準で約1.19、入力を上げた条件で約1.33、比は約1.12である。臨床のPVRと測定の境界は同じではない。右室の拡張末期容積は三尖弁閉鎖時、収縮末期容積は肺動脈弁閉鎖時の値、右室EFはその二つから求めた。左室の容積は一拍の最大容積である。

    右室の比較で変えたのは右室自由壁のTref倍率だけで、中隔のTref倍率は1.00のままである(中隔は左室側の操作の対象に含まれる)。中隔で実際に発生する張力は、右室の変化に伴う形状や負荷の変化を通じて変わりうる。

文献

  1. Lumens J, Delhaas T, Kirn B, Arts T. Three-wall segment (TriSeg) model describing mechanics and hemodynamics of ventricular interaction. Ann Biomed Eng. 2009;37:2234–2255. 三壁心室モデルの原著。共有中隔を介した心室間相互作用の幾何と力の釣り合い。出版社本文と図注を確認。
  2. Pinsky MR. Dynamic right and left ventricular interactions in the pig. Exp Physiol. 2020;105:1293–1315. 開胸仔豚7匹で左右の圧容積を同時計測し、大動脈・肺動脈の急速な部分閉塞などで相互作用を調べた実験原著。詳細抄録と図説明を確認。主な結果は閉塞直後の数拍の解析で、本コースの周期定常比較で再現した対象ではない。
  3. Vaillant F et al. Influence of pericardium on ventricular mechanical interdependence in an isolated biventricular working pig heart model. J Physiol. 2025;603:285–300. 摘出ブタ両心室作動標本で、左右の前負荷・後負荷を別々に変え心膜の有無を比較。抄録と導入部を確認。本稿では方法論の参考として引用。
  4. Tedford RJ et al. Right ventricular dysfunction in systemic sclerosis-associated pulmonary arterial hypertension. Circ Heart Fail. 2013;6:953–963. 血管側データ282例、右室圧容積解析はIPAH 5例・SSc-PAH 7例。Methods・Results・Table 2・図注を確認。PMC著者稿で記事固有の図再利用許諾は確認できず、本稿の図は表の数値からの独自作図。