心室を2本の曲線で表す――ESPVRとEDPVR
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「EFが下がったので収縮が悪くなった」「LVEDPが高いので心室が硬い」。一拍の数値から心室の性質を読むのは、臨床ではよくあることだ。しかし、一拍の数値は心室の性質だけでなく、そのときの充満(前負荷)と、送り出す先の負荷(後負荷)でも変わる。Kassらは、摘出したイヌの心室で前負荷と後負荷を別々に制御して変え、EF(後負荷で大きく低下)や最大dP/dt(前負荷に比例して増加)など多くの指標が負荷で変わることを示した。収縮末期圧–容積関係(ESPVR)は、強心刺激への反応はむしろ他の多くの指標より小さいが、より広い負荷の範囲で負荷の影響を受けにくい点に利点があった1)。
この回では、心室の性質を一拍の点ではなく、2本の曲線として表す。読み終えたら、ESPVRとEDPVRを、負荷を変えた複数の拍から描く方法で説明できる。負荷が変わって「曲線の上を動く」変化と、心筋が変わって「曲線そのものが動く」変化を区別できる。Ees・V₀・EDPVRの傾きの意味と、読むときの限界を述べられる。
一拍のあいだに、心室の硬さは変わる
収縮期の心室は硬くなり、同じ容積でも高い圧を生む。拡張期には柔らかくなり、低い圧で血液を受け入れる。Sugaらは、イヌの左室で、各時刻の圧を容積(ある切片V₀から測った値)で割った比が、拡張末期容積や動脈圧を変えてもほぼ同じ時間経過をたどることを示し2)、摘出心では等容収縮の拍と駆出する拍とで同じような時間経過になることを確かめた3)。この比を時変エラスタンスと呼ぶ。
収縮の終わりには、この硬さが最大に近づく。負荷を変えた拍の収縮末期の点を結ぶと、ある範囲でほぼ直線になる。これが収縮末期圧–容積関係ESPVRで、傾きをEes、容積軸との交点をV₀と表す。
拡張末期の点を結んだ曲線が拡張末期圧–容積関係EDPVRで、弛緩した心室に血液を入れていくときの圧と容積の関係を表す。容積が小さいうちはなだらかで、大きくなると急に立ち上がる。指数関数で近似すると、ある容積での傾き(その点での硬さ)は圧とともに大きくなる。
同じEDPVRの上でも、高い圧のところで使えば傾きは大きい。「硬い」という言葉が曲線そのものの位置を指すのか、その上の作動点での傾きを指すのかを分けて読む。この区別は拡張能のコースで詳しく扱う。一拍のPVループは、この2本の曲線のあいだに収まる。左上の角はESPVRに、右下の角はEDPVRに接し、その間の幅と高さは、どれだけ充満したかと、どれだけの圧に向かって駆出したかで決まる。注1
2本の曲線は、負荷を変えた複数の拍から描く
動物実験や心臓カテーテル検査では、下大静脈を一時的にふさいで数秒のうちに前負荷を下げ、その間に続けて記録したループから2本の曲線を描く。図1はブタで記録した例である。閉塞が進むにつれてループは左下へ移り、左上の角が一本の線に沿って並ぶ。心拍数や心筋の状態が変わらないうちの数秒で測るのが、この方法の要点である。
図1:下大静脈を閉塞しながら記録した一連のPVループ

麻酔下のブタで同時に記録した左室(青)と右室(黒)のPVループ。上段は基準、下段はβ遮断薬エスモロール投与後で、それぞれ下大静脈を約5秒閉塞しながら記録した。パネルごとに軸の目盛りが異なる。左室のパネルで、各ループの左上の角の並びに注目する。注2
このコースの実験では手順が異なる。条件ごとに総血液量を段階的に変え、その一つひとつを周期定常まで計算して、負荷の系列をつくる。数秒の閉塞で得る系列とは同じ操作ではないため、得られる傾きを実測の値とそのまま比べない。実験のPVループには、この系列の収縮末期・拡張末期の点と、それに当てはめたESPVR・EDPVRが表示される。表示には数十秒かかる。注3
予測:抵抗だけを変えると、何が動くか
心筋の設定は変えずに、体血管抵抗の倍率だけを0.80、基準の1.04、1.25の3条件にする(基準比で約0.77倍と約1.20倍)。抵抗を下げると血液を送り出しやすくなり、EFは上がるだろう。そのとき、ESPVRはどう見えるだろうか。
確認問題
体血管抵抗だけを下げてEFが上がった。心筋の設定は変えていない。ESPVRについて最も適切なものはどれか。
- 収縮末期の点がほぼ同じ線の上を左下へ移り、線そのものはあまり動かない
- ESPVRの傾きがEFと同じ割合で大きくなる
- ESPVRが大きく右へ移る
答えと解説
正解: 収縮末期の点がほぼ同じ線の上を左下へ移り、線そのものはあまり動かない
抵抗を変えても心筋は同じなので、収縮末期の点はほぼ同じ関係の上を移動する。EFは負荷で動くが、ESPVRの動きは小さい。ただし完全に同じ線にはならない(本文参照)。
抵抗だけを変える
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インタラクティブ・シミュレーション. シナリオ 3件・グラフ 2件・出力 21件・操作 0件. グラフ 1. グラフ 2. EF. EF. EF. EDV. EDV. EDV. ESV. ESV. ESV. 収縮末期圧(経壁). 収縮末期圧(経壁). 収縮末期圧(経壁). 拡張末期圧(経壁). 拡張末期圧(経壁). 拡張末期圧(経壁). SV. SV. SV. dP/dt max. dP/dt max. dP/dt max実験では、3条件のPVループと負荷の系列を切り替えて比べよう。抵抗を下げるとループは左へ、上げると右上へ移る。一方、収縮末期の点の並びは3条件でほぼ重なる。
EFは、抵抗の倍率0.80で約59%、基準(1.04)で約56%、1.25で約53%だった。同じ系列から求めたESPVRの傾きは約1.59、1.55、1.51 mmHg/mLで、変化はEFより小さい。一方、左室の能動張力を0.70倍に弱めると、傾きは約1.05 mmHg/mLまで下がった(次の実験)。EFは負荷でも心筋でも動くが、ESPVRは主に心筋の変化で動く。
ただし、ESPVRが負荷から完全に独立しているわけではない。図2の左下の拡大図のように、抵抗を上げると収縮末期の点の並びはわずかに上へずれ、同じ64 mLで比べると収縮末期圧は約102、108、112 mmHgだった。駆出そのものが収縮末期の圧に影響することは動物実験で示されており5)、このモデルで抵抗を下げてEFが上がると、同じ容積での収縮末期圧が下がったこととも合う。また、どの負荷操作で系列をつくるかによってもESPVRは変わり、大動脈を絞って得たESPVRは静脈に輸血して得たものより傾きが大きかった6)。ESPVRは「負荷の影響を受けにくい」関係であって、負荷と無関係な定数ではない。
最大dP/dt(等容収縮期に圧が上がる最大の速さ)も、心筋を変えずに約10%変わった。抵抗を上げると拡張末期容積が増えたこと(前負荷の増加)が主に関わると考えられる。最大dP/dtは前負荷の影響を強く受ける1)。
図2:抵抗を変えたときと、心筋を変えたときの負荷系列

上段:各条件の周期定常のPVループ(総血液量4935 mL)と、総血液量を変えて得た負荷系列の収縮末期(●)・拡張末期(■)の点(左右の拍出量が一致しなかった最も多い総血液量の点は除いた)。凡例の数値は、総血液量約3900〜5600 mLの5点に当てはめた直線の傾き。下段左:抵抗3条件の収縮末期の点の拡大(点線は当てはめた直線)。下段右:心筋を変えた3条件の拡張末期の点の拡大。縦軸は経壁圧。注3
CircleHeart Standard74の保存状態と登録済み解析から作図
曲線そのものを動かす
次に、心筋の設定そのものを変える。左室自由壁と中隔の能動張力(収縮するときに出す力、収縮の強さ)の倍率を1.00から0.70にした条件と、受動張力(弛緩した壁を伸ばすときの抵抗)の倍率を基準の1.04から1.33に(基準の約1.28倍)した条件を、基準と比べる。どちらの曲線が、どちらへ動くかを予想してから実験を見よう。
収縮と硬さを変える
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このとき、一拍の数値はどう変わったか。能動張力を弱めた条件でも、SVは約80 mLから約77 mLへとわずかに減っただけだった。そのかわりEDVが約144 mLから約161 mLに増え、平均左房圧は約8.4 mmHgから約10.4 mmHgに上がった。受動張力を強めた条件では、EFは約56%のまま変わらず、LVEDPが約10.9 mmHgから約13.1 mmHgに上がった。心室の性質が変わっても、閉じた循環では充満と拍出が新しい釣り合いに落ち着くため、一拍の数値には変化の一部しか表れない。この釣り合いは第5回と第6回で扱う。
Ees・V₀・EDPVRを読むときの注意
EesはV₀と組にして読む。ESPVRは収縮性が高いときや低いときに曲がり、どの容積範囲で直線を当てはめたかで傾きもV₀も変わりうる7)。V₀は直線を延ばした切片で、空の心室の容積ではない。このモデルのV₀が負の値になるのも、曲がった関係の一部に直線を当てたためである。
Eesは心室という部屋全体の性質で、心筋そのものの強さとは限らない。同じ心筋でも、心室が大きい、壁が薄いなど形が違えばEesは変わる。臨床研究では、下大静脈の閉塞を行わずに、一拍の圧・容積と経験式からEesを推定する方法も使われる8)。推定値は負荷系列から測ったEesとよく相関するが誤差があり(標準誤差約0.6 mmHg/mL)、同じ値とはみなせない。
EFはEesだけでなく、後負荷とEDVにも左右される。この関係は、次回の動脈の負荷を加えると式で表せる。
確認
確認問題
一拍のPVループだけから、ESPVRの傾きEesを求められない理由として適切なものはどれか。
- ESPVRは負荷を変えた複数の拍の収縮末期の点を結んだ関係だから
- 一拍のループには収縮末期の点がないから
- Eesは拡張期の圧から求める量だから
答えと解説
正解: ESPVRは負荷を変えた複数の拍の収縮末期の点を結んだ関係だから
一拍には収縮末期の点が一つしかない。関係(線)を描くには、負荷を変えた複数の点が要る。
確認問題
血液量を増やしてLVEDPが上がった。受動張力は変えていない。最も適切な読み方はどれか。
- 同じEDPVRの上を、傾きの大きい高い圧のところへ移った
- EDPVRが上へ移ったので、心室が硬くなった
- ESPVRが下がったので、充満圧が上がった
答えと解説
正解: 同じEDPVRの上を、傾きの大きい高い圧のところへ移った
EDPVRは曲がっているので、同じ曲線の上でも容積が増えると圧は急に上がる。曲線そのものが動いたかどうかは、同じ容積での圧を比べて判断する。
確認問題
抵抗の倍率を1.25(基準1.04)にするとEFは約56%から約53%に下がった。この変化について適切なものはどれか。
- 心筋の収縮は変えておらず、後負荷の増加でEFが下がった
- EFが下がったので、Eesも同じ割合で下がった
- EDVが減ったためEFが下がった
答えと解説
正解: 心筋の収縮は変えておらず、後負荷の増加でEFが下がった
心筋の設定は同じで、ESPVRの傾きの変化は小さい。EFの低下は主に後負荷の増加による。このときEDVはむしろ増えている。
注釈
- 注1曲線とループの関係↩
ESPVRとEDPVRはループの角の位置を制約するが、ループの途中の形までは決めない。駆出中の圧の経過や等容期の形は、心筋の収縮・弛緩の時間経過、弁、動脈の性質によって決まる。
閉じた循環の負荷系列で得る拡張末期の点は、容積が大きいところでは心膜や右室の影響も含む。弛緩した心室だけを取り出して測るEDPVRとは同じではない。
- 注2実測図の条件↩
原著は麻酔下のブタで、左右の心室の圧と容積を同時に測る方法を示した技術報告である。図は下大静脈閉塞中の系列を示すもので、エスモロールの効果を定量した結果として読むものではない。CircleHeartの数値の妥当性を検証した図ではない。
ここでのP・Pes・Pedは、心外圧を引いた左室の経壁圧である。各条件の周期定常から冠循環のトーンを固定し、総血液量を約2450 mLから条件により約6900〜7900 mLまでの12〜13段階に変えて、それぞれを周期定常まで計算した。最も多い総血液量の点のなかには、左右の心拍出量が一致せず周期定常に達していないものがあり(差0.15 L/分以上かつ2.5%以上)、図からは除いた。実験のPVループの表示には、これらの点が含まれることがある。各段階の収縮末期は大動脈弁の閉鎖時、拡張末期は一拍の中で容積が最大になる時点(登録済み解析の定義)で、縦軸は経壁圧を用いた。この拡張末期は、第1回で使った僧帽弁閉鎖時とは定義が異なるが、この系列ではほぼ同じ値になる。
本文の傾きは、総血液量約3900〜5600 mLの5点に通常の最小二乗法で直線を当てはめた記述的な値である(最大の残差は約1〜2.5 mmHg)。実験のPVループに表示されるESPVR・EDPVRは、登録済みの解析法で同じ系列から求めたもので、本文の直線とは当てはめ方が異なる場合がある。
能動張力と受動張力は、モデルの壁の材料則に掛ける倍率である。能動張力の倍率はEesそのものではなく、受動張力の倍率はEDPVRの式のβを直接変える操作でもない。左室の能動張力は左室自由壁と中隔に、受動張力の変更も左室自由壁と中隔に加えた。
文献
- Comparative influence of load versus inotropic states on indexes of ventricular contractility: experimental and theoretical analysis based on pressure-volume relationships Kass DA, Maughan WL, Guo ZM, Kono A, Sunagawa K, Sagawa K. Circulation. 1987;76(6):1422–1436.↩1↩2
- Load independence of the instantaneous pressure-volume ratio of the canine left ventricle and effects of epinephrine and heart rate on the ratio Suga H, Sagawa K, Shoukas AA. Circ Res. 1973;32(3):314–322.↩
- Instantaneous Pressure-Volume Relationships and Their Ratio in the Excised, Supported Canine Left Ventricle Suga H, Sagawa K. Circ Res. 1974;35(1):117–126.↩
- Technical and analytical approach to biventricular pressure-volume loops in swine including a completely endovascular, percutaneous closed-chest large animal model Stonko DP, Rousseau MC, Price C, et al. JVS Vasc Sci. 2024;5:100190.↩
- End-systolic pressure as a balance between opposing effects of ejection Hunter WC. Circ Res. 1989;64(2):265–275.↩
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