僧帽弁を広げると、左房圧と左室の圧はどう変わるか
公開
目次
僧帽弁狭窄を経皮的に解除すると、平均左房圧は下がったのに、左室拡張末期圧(LVEDP)は上がった。どちらも「充満圧」と呼ばれるので、同じ患者で充満圧が改善し、同時に悪化したように見える。しかし二つの値は、測っている心腔も、心周期の時点も違う。本稿の問いは、弁口が広がったとき左房と左室の圧がそれぞれどちらへ動くのか、そしてLVEDPの上昇は左室が硬くなった証拠なのか、である。読み終えたときに、平均左房圧とLVEDPが別々に動く理由、同じ受動圧–容積関係の上でも拡張末期の圧が上がりうる仕組み、そして左室圧の変化の向きが圧を読む時点によって逆転しうることを説明できるようにしたい。
充満圧は一つではない
出発点はAthaydeらの観察である。重症リウマチ性僧帽弁狭窄に対する経皮的僧帽弁形成術(PMV)の直前と直後に侵襲的に圧を測ると、図1のように、平均左房圧は下がり、LVEDPは上がった。心拍出量は3.9から4.1 L/minへ増えている。二つのグラフは同じ縦軸の尺度で描いてあるので、平均左房圧の下がり幅がLVEDPの上がり幅よりずっと大きいことも読み取れる。ただし点は研究全体の群平均であり、平均どうしを結んだ線は、個々の患者がその経路をたどったことを示すものではない。原著のFig. 1には術前後の左房・左室の同時圧波形も示されている。1)
図1:PMV後、平均左房圧は低下しLVEDPは上昇した

AthaydeらのTable 2に示された術前・術直後の圧を独自に作図した。重症リウマチ性僧帽弁狭窄症137例を登録した研究の集団値で、点は平均、誤差棒はSD。左右の縦軸は同じ0–40 mmHgとした。線は集団平均を結び、各患者の変化や変化量のばらつきを示すものではない。平均左房圧と、左室の拡張末期という一時点の圧を区別して読む。1)
Athayde et al. Impact of left atrial compliance improvement on functional status after percutaneous mitral valvuloplasty. Catheter Cardiovasc Interv. 2019;93:156–163, Table 2. doi:10.1002/ccd.27831. 掲載数値に基づく本稿の独自作図。
二つの圧が逆に動けるのは、別のものを測っているからである。平均左房圧は、左房の圧を一拍にわたって平均した値である。左房は肺静脈の出口にあたるので、この値は、肺循環がどれほどの下流圧に向けて血液を送っているかを表す。これに対してLVEDPは、左室の充満が終わる一時点の圧であり、その時点の左室容積、まだ残っている能動張力、心房収縮による充満、心室の外からの圧迫が重なって決まる。一方の値が分かれば他方も決まる、という関係にはない。
Tは一拍の長さ、P_LA(t)とP_LV(t)は時刻tにおける左房と左室の内腔圧(mmHg)、t_EDは拡張末期と定めた時刻である。左の式は一拍全体の平均、右の式は一時点の値なので、二つは時間の扱いからして異なる。モデルの左室圧を臨床のLVEDPと比べるには、どの心周期イベントで圧を読んだかまでそろえる必要がある。後の実験で主に示す左室圧は僧帽弁閉鎖時の値であり、その時点が充満の終わりを捉えているかどうかは、圧波形で改めて確かめる。
臨床では、左房圧の代わりに肺動脈楔入圧(PAWP/PCWP)を用いる場面が多い。右心・左心カテーテルの同時測定を解析したHemnesらは、PAWPとLVEDPの不一致が珍しくなく、心房細動やリウマチ性弁膜症などと関連することを示した。不一致は計測上の問題を点検する契機になると同時に、二つの値がもともと異なる部位と時点の情報であることを思い出させる。2)
流入口を広げると、上流と下流はどう変わるか
僧帽弁が開いている間、左房から左室へ血液を送る駆動力は両者の圧差である。弁口が狭ければ、同じ流量を通すのに大きな圧差が要る。弁口が広がれば、その流量に必要な圧差は小さくなる。ただし閉じた循環では流量そのものも変わるので、圧差が小さくなったことだけからは、左房圧と左室圧がそれぞれどれだけ動くかは決まらない。
ΔP_MVは僧帽弁をはさむ圧差(mmHg)、V_LVは左室容積(mL)である。Q_MVは左房から左室へ、Q_Aoは左室から大動脈へ向かう体積流量(mL/s)を正とし、逆流は負の値として含める。右の式は、左室容積の増減が入口と出口の流量の差で決まることを表している。周期定常状態では一拍を通した容積の増減がゼロになるので、僧帽弁を前向きに通る正味の量は、大動脈へ出る量と等しい。総血液量が一定の循環で弁口が広がると、左房と肺循環が高い圧で抱えていた血液の一部が下流へ移り得る。そうなれば、左房圧が下がりながら、左室はより大きな容積まで充満し、拍出も増える。この組合せは、入口の変化だけでも成立し得る。
左房圧の低下は、左房にかかる圧負荷の軽減として素直に読める。これに対して、LVEDPの上昇から左室の受動特性の悪化を結論することはできない。受動の圧–容積関係が同じでも、より大きな容積で充満を終えれば、拡張末期の圧は高くなるからである。
曲線の上を移るのか、曲線そのものが変わるのか
この区別を式で確かめる。左室の非線形な受動圧–容積関係を、説明用に指数関数で表す。圧には壁を伸ばす内外の圧差である経壁圧P_tm(mmHg)を用い、心筋は十分に弛緩し、外的拘束など他の条件は一定と仮定する。Vは左室容積(mL)、V₀は経壁圧がゼロになる基準容積(mL)、Aは圧の尺度(mmHg)、βは曲率を決める係数(1/mL)である。これは作動点の動きを理解するための静的な式であり、本稿のモデルの構成式を置き換えるものではない。
右の式は、左の式をVで微分し、指数の項を圧で書き直したものである。局所の傾きdP_tm/dV(mmHg/mL)は、その点の圧P_tmにAを加えた量に比例する。A、β、V₀を一つも変えなくても、容積が増えて曲線の右上へ移れば、圧は上がり、傾きも急になる。つまり「その作動点で硬く見える」ことと「心筋の材料特性が変わった」ことは別の命題である。逆に、拡張末期の圧と容積の一点だけでは三つの係数を決められず、曲線全体の形は定まらない。
実際のLVEDPには、受動張力に加えて、心房収縮による充満や外的拘束も関わるので、術後のLVEDP上昇をこの式だけで説明し切ることはできない。それでも式は一つの推論を与える。同じ外圧のもとで同じ静的な受動曲線が保たれ、充満の終わりまでに十分に弛緩しているなら、左室がより大きな容積まで充満したとき、その時点の左室圧は曲線の上を移って上がるはずである。
弁治療は、入口以外も変えうる
一方で、曲線そのものが変わる可能性を示す研究もある。Liuらは、僧帽弁狭窄9例と対照8例で、conductance catheterと下大静脈閉塞による負荷変更を用いて左室の圧–容積関係を調べた。狭窄群の心腔コンプライアンスは低く、術直後に再評価した5例では正常側へ改善した。著者らは、肥厚して動きにくい弁装置が心室を内側から拘束しており、その拘束が解除された可能性を示した。入口を広げても心室側の特性は変わらない、という前提は、患者で常に成り立つわけではない。3)
これに対し、Athaydeらが圧変化幅と一回拍出量から推定した左室コンプライアンスは、術前後で有意に変わらなかった。Liuらが複数の負荷で得た圧–容積関係と、この一拍からの推定値は同じ測定ではない。二つの研究は、LVEDPの上昇を読むときに「同じ曲線の上をより大きな容積へ移った」と「曲線そのものが変わった」の両方を候補に残す理由になる。以下のモデル実験では、心室壁の設定を固定したまま弁口を変え、循環全体の定常応答を調べる。ただし壁の設定を固定しても、粘弾性や能動成分、心腔どうしの連成を含むモデルでは、心腔の圧–容積関係全体が不変に保たれると保証されるわけではない。
実験:左室壁の設定を固定し、弁口だけを広げる
実験では、僧帽弁の最大前方有効開口面積を0.95 cm²と1.65 cm²、左室自由壁・中隔の受動係数を1.04と1.33とした条件を用意した。最初の実験は受動係数を1.04に固定し、弁口0.95 cm²と1.65 cm²の二条件を比べる。心拍数70 bpm、総血液量4,935 mL、僧帽弁の閉鎖時逆流口面積0は全条件で共通とし、各条件の周期定常状態を比べる。モデルの有効開口面積は、原著の解剖学的な弁口面積と同じ測定量ではない。注1
静的な受動曲線だけで考えるなら、予測は次のようになる。弁口を広げると、平均左房圧は下がり、左室が充満を終える容積と前方心拍出量は増える。そして曲線と外圧が同じで十分に弛緩していれば、充満の終わりの左室圧は曲線の上を移って上がる。実際のモデルでは、同じ壁パラメータのもとで心腔と循環が連成して応答するので、この推論がそのまま成り立つとは限らない。実験で確かめるのはその点である。
インタラクティブ・シミュレーション
心室条件を固定し、僧帽弁口を広げる
シナリオ 2件・グラフ 4件・出力 10件・操作 0件
- 左室圧と左房圧
- 僧帽弁の流量
- 左室PV(経壁圧)
- グラフ 4
- 平均左房圧
- 平均左房圧
- MV閉鎖時LV腔内圧
- MV閉鎖時LV腔内圧
- 有効CO
- 有効CO
- MV閉鎖時LV容積
- MV閉鎖時LV容積
- 僧帽弁平均水力学的圧較差
- 僧帽弁平均水力学的圧較差
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
時間波形では、二条件の左房圧と左室圧を同じ時間軸で比べる。拡張期に左房圧が左室圧をどれだけ上回り、その間にどれだけの僧帽弁流量が生じているかが、弁口の効果の直接の表れである。そのうえで、平均左房圧と僧帽弁閉鎖時の左室圧を別々の値として読み、同じ閉鎖イベントでの左室容積と前方心拍出量を対応させる。
PV図では、僧帽弁閉鎖時の点が容積方向にどれだけ動いたか、左房の圧–容積軌道がどう変わったかが読みどころになる。PV図の縦軸は経壁圧、時間波形の左房・左室圧は内腔圧であり、両者は心腔の外側の圧の分だけ異なる。
受動係数1.04で弁口を0.95から1.65 cm²へ広げると、平均左房圧は16.4から10.2 mmHgへ下がった。同じ閉鎖イベントの左室容積は131.1から140.8 mL、前方心拍出量は5.22から5.53 L/minへ増えた。ここまでは予測どおりで、壁の設定を変えなくても、入口を広げるだけで臨床と同じ向きの左房圧低下と拍出増加が現れた。ところが、僧帽弁閉鎖時の左室内腔圧は24.7から10.7 mmHgへ下がった。
受動係数1.33でも向きは同じだった。平均左房圧は16.7から10.8 mmHg、閉鎖時の左室内腔圧は23.5から13.1 mmHgへ下がり、容積は130.5から139.7 mL、前方心拍出量は5.18から5.49 L/minへ増えた。次の実験では、受動係数1.33の二条件を同じように比べられる。
受動係数1.33でも、同じ弁口比較を確かめる
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
インタラクティブ・シミュレーション. シナリオ 2件・グラフ 4件・出力 10件・操作 0件. 左室圧と左房圧. 僧帽弁の流量. 左室PV(経壁圧). グラフ 4. 平均左房圧. 平均左房圧. MV閉鎖時LV腔内圧. MV閉鎖時LV腔内圧. 有効CO. 有効CO. MV閉鎖時LV容積. MV閉鎖時LV容積. 僧帽弁平均水力学的圧較差. 僧帽弁平均水力学的圧較差弁口を固定して受動係数だけを比べると、平均左房圧の差は狭い弁口で0.3 mmHg、広い弁口で0.6 mmHgにとどまり、弁口を広げたときの約6 mmHgの低下よりずっと小さかった。係数1.33は基準1.04の約1.28倍で、受動応力の振幅と粘弾性の係数を同時に変える操作である。この設定範囲では、平均左房圧を主に動かしていたのは弁口の通りやすさだった。弁治療後に何が残るかを考えるときも、弁口と心筋側の条件は別々に評価する必要がある。
左室圧の変化の向きは、読む時点で逆になる
閉鎖時の左室圧の低下は、静的な曲線からの推論とも、Athaydeらが報告したLVEDPの上昇とも逆向きである。しかし壁の設定は固定しているので、この低下を「心筋が軟らかくなった」と読むことはできない。先に確かめるべきは、僧帽弁閉鎖という時点が、推論で想定した「十分に弛緩した充満の終わり」に当たっているかどうかである。
このモデルでは、心房の周期の原点から120 ms後に心室のCa入力が始まる。四条件とも、僧帽弁の閉鎖はこの時点より後だった。受動係数1.04では、閉鎖は狭い弁口で原点から177.4 ms後、広い弁口で153.4 ms後であり、Ca入力の開始からそれぞれ約57 msと約33 msが経っている。したがって閉鎖時の圧には、収縮に向かう圧の立ち上がりが含まれ得るし、その含まれ方は弁口によって異なり得る。狭い弁口では高い左房圧に押されて流入が長く続き、そのぶん閉鎖が遅れていると考えられる。最大容積も閉鎖時と同じ値なので、最大容積の時点で圧を読んでも、昇圧前の値を独立に確かめたことにはならない。
そこで、同じ条件の時系列から、心室のCa入力が始まる120 msの時点に読みをそろえた。受動係数1.04では、この時点の左室内腔圧は弁口の拡大で6.5から9.6 mmHgへ上がり、閉鎖時で読んだ場合と向きが逆になった。係数1.33でも同じ向きだった。図2は、各パネルで受動係数を固定し、緑の狭い弁口と橙の広い弁口を重ねたものである。四角で示すCa入力開始の時点では橙の左室圧(実線)が緑より高く、丸で示す閉鎖時点では逆に緑の方が高い。同じ二つの拍を比べても、どの時点で読むかによって大小が入れ替わる。
図2:同じ拍でも、圧を読む時点で左室圧の大小が入れ替わる

本モデルの定常拍から作成した図。左は左室受動係数1.04、右は1.33。緑は有効弁口0.95 cm²、橙は1.65 cm²で、実線が左室内腔圧、破線が左房内腔圧。四角は心房の周期の原点から120 ms後の心室Ca入力開始時点、丸は同じ波形に実験の指標と同じ判定法を適用して求めた僧帽弁順行流の終了(閉鎖)時点を示す。Ca入力開始時点の値は2 ms間隔の波形を線形補間した。実験画面の閉鎖時指標とは別に計算した定常拍を描いている。Ca入力開始は臨床LVEDPの代替ではなく、狭い弁口ではこの時点にも流入が続く。
本アプリの保存条件に基づく時系列を用いた本稿の独自作図。患者の実測データではない。
ただし、120 msでの比較も充満の終わりどうしの比較ではない。図の左パネルで緑の破線と実線を比べると、狭い弁口ではこの時点でも左房圧が左室圧を約15 mmHg上回り、流入が続いている。容積も122.5 mLで、閉鎖時の131.1 mLに達していない。そもそもCa入力の開始は、QRS開始や機械的収縮の開始、能動張力の消失を保証する時点ではなく、臨床のLVEDPの定義とも一致しない。この結果から言えるのは、「左室の圧が上がったか、下がったか」という答えが、どの時計とイベントで読むかによって入れ替わる、ということである。Athaydeらが報告したLVEDPの上昇をモデルが再現したかどうかは、判定を保留する。注2
時点をそろえてもなお臨床と符号が合わない場合、検討すべき候補は、左房と左室の特性、循環の血液量、弁装置による拘束、充満の終わりに残る能動成分である。このモデルは、弁装置が心室壁を係留する機構を直接には備えていない。受動係数を同時に下げる対角の比較も、心室側の条件を変えた感度実験であり、Liuらが示した拘束解除の機序そのものを再現する操作ではない。
先行する計算研究とは、何を固定したかが違う
van den AckerらはCircAdaptで、僧帽弁狭窄、左室コンプライアンス低下、左房機能低下を組み合わせた仮想コホートを作った。弁口を広げると圧較差は減ったが、左室と左房の両方に異常を設定した条件では、平均左房圧の低下は小さかった。原著計算のLVEDPは、介入前後でほぼ変わらなかった。図3は原著Fig.6で、上半分Aが介入前、下半分Bが弁口拡大後、4列が心筋条件の違いを表す。同じ列の上下で圧較差と平均左房圧の値を比べ、列の間でその差を比べると、圧較差の改善と肺うっ血側の圧の改善が同じ量ではないことが読み取れる。仮想コホート全体の結果は原著Fig.7に示されている。4)
図3:同じ弁介入でも、残る左房圧は心筋条件で変わる

van den Acker et al. Fig.6を改変せず転載。全列が原著CircAdaptの仮想患者であり、本記事の実験結果ではない。Aは介入前、Bは有効弁口面積を5.9 cm²へ戻した後。原著はCOと平均動脈圧を一定に保つ設定を用いた。4)
© The Author(s) 2025. Published by Oxford University Press on behalf of the European Society of Cardiology. van den Acker et al., European Heart Journal – Digital Health 2026;7:ztaf097, Fig.6. doi:10.1093/ehjdh/ztaf097. 原図に改変なし。 · CC BY 4.0
ただし原著は、COと平均動脈圧を一定に保つよう血液量と血管抵抗を調整し、有効弁口面積を5.9 cm²へ戻している。本稿の実験は総血液量を固定し、面積を0.95から1.65 cm²へ変える。何を固定したかが違う以上、原著計算と数値や変化量を直接突き合わせることはできず、比べられるのは向きと、心筋条件によって反応が変わるという構図である。
左房側の指標にも同じ注意が要る。Athaydeらは、左房の収縮期圧上昇幅と一回拍出量から推定した左房コンプライアンスの改善も報告した。この指標は、そのときの圧と流入量から求める作動中の推定値である。弁治療後に値が改善しても、それだけで左房壁の材料特性が短時間に変わったとは判断できない。1)
二つの充満圧を、別々の問いとして読む
冒頭の問いに戻る。平均左房圧の低下とLVEDPの上昇は、測る心腔と時点が違うので矛盾しない。弁口の拡大は左房と肺循環の圧負荷を下げ、左室をより大きな容積まで充満させうる。静的な受動曲線が変わらなければ、その上の移動だけで充満の終わりの圧は上がりうる。一方、Liuらの所見は曲線そのものが変わる可能性も示している。モデルでは、左室壁の設定を固定したまま弁口を広げるだけで、平均左房圧の低下と、左室容積および前方心拍出量の増加が現れた。左室圧の変化の向きは僧帽弁閉鎖時とCa入力開始時で逆になり、どちらも臨床のLVEDPと同じ時点ではない。臨床の圧変化を読むときは、平均左房圧、充満の終わりの左室圧、弁閉鎖時の圧、容積、流量を、それぞれがどの時点の値かとともに対応させることが出発点になる。
拡張能と弛緩|記事と実験のガイド連載全8回の一覧と、実験の読み方。CircleHeart 次へ|大きなv波は、強いMRを意味するか――左房の受け入れと押し出し第5回へ進む。CircleHeart注釈
- 注1有効開口面積、受動係数、PVの測定条件↩
実験の面積は流れを規定する最大有効開口面積であり、心エコーのplanimetryによる面積との一対一の校正は行っていない。受動係数の変更は、平衡時の受動張力と粘弾性の係数に関わり、受動応力の振幅を変える操作である。指数式のβを操作したものではない。心腔PVの経壁圧と内腔圧は、外側の圧の分だけ異なる。モデルの左房内腔圧は直接の左房圧であり、カテーテルの楔入手技、呼吸相、伝播遅延を含めたPAWP測定そのものを再現してはいない。
- 注2圧を読む時点と、確定できなかった波形指標↩
僧帽弁閉鎖イベントは、心房の周期の原点から、受動係数1.04で177.4→153.4 ms、1.33で175.4→155.4 ms(狭い弁口→広い弁口)だった。心室Ca入力は120 msで始まる。120 msの値は、同じ条件から別に計算した定常拍の2 ms間隔の時系列を線形補間して得たもので、実験画面に表示される指標ではない。係数1.33の同じ120 ms時点の左室内腔圧も8.0→11.5 mmHgへ上昇した。Ca入力開始はQRS開始や機械的収縮開始、残存能動張力ゼロを保証する時点ではなく、臨床LVEDPへ直接置き換えられない。最大容積は閉鎖前後の等容区間にわたり、圧を読む一意な時刻を指定しない。
E波減速時間と独立したA波持続時間は分離できず、広い弁口側のE/Aも未確定だった。空欄は正常またはゼロを意味しない。
文献
- Athayde et al. Impact of left atrial compliance improvement on functional status after percutaneous mitral valvuloplasty. Catheter Cardiovasc Interv. 2019;93:156–163. doi:10.1002/ccd.27831. Fig.1:左房・左室同時圧。Table 2:術前後の血行動態。↩1↩2↩3
- Hemnes et al. Features Associated With Discordance Between Pulmonary Arterial Wedge Pressure and Left Ventricular End Diastolic Pressure in Clinical Practice. Chest. 2018;154:1099–1107. doi:10.1016/j.chest.2018.08.1033. Fig.2:PAWP–LVEDPの対応と差。↩
- Liu et al. Reduced left ventricular compliance in human mitral stenosis. Role of reversible internal constraint. Circulation. 1992;85:1447–1456. doi:10.1161/01.CIR.85.4.1447. 負荷変更による圧–容積評価。術直後5例、3か月後4例で再評価。↩
- van den Acker et al. Impact of left-heart myopathy on mitral valve stenosis assessment and interventional outcomes: an in-silico trial. Eur Heart J Digit Health. 2026;7:ztaf097(オンライン公開2025). doi:10.1093/ehjdh/ztaf097. Fig.6:介入前後の圧と流入。Fig.7:心筋条件による反応の違い。↩1↩2