充満圧は前負荷か――Frank–Starling曲線を2つの軸で読む
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中心静脈圧(CVP)や肺動脈楔入圧は、長く心室の前負荷の目安として使われてきた。Kumarらは、健康な志願者に3 Lの生理食塩水を3時間かけて投与し、楔入圧やCVPが、心室の拡張末期容積の指数とも、一回拍出量の指数とも相関しないこと、輸液による変化どうしも相関しないことを示した。一方、拡張末期容積の指数は一回拍出量の指数と相関していた1)。敗血症の患者でも、輸液前のCVPや楔入圧で輸液への反応を予測する力は低かった(ROC曲線下面積はいずれも0.6前後と低かった)2)。充満圧は、前負荷を表しているのだろうか。
この回では、Frank–Starlingの関係を、容積を横軸にした場合と、充満圧を横軸にした場合の二通りで描く。読み終えたら、容積を横軸にした関係がほぼ直線になる理由と、圧を横軸にすると曲がって平らになる理由を式で説明できる。同じ充満圧でも前負荷(拡張末期容積)が違いうることを、心室の硬さから予測できる。曲線が平らに見える部分を、心臓の限界と区別して読める。
伸びた心室は、より多く送り出す
心筋は、伸ばされてから収縮すると大きな力を出す。PattersonとStarlingは、イヌの心肺標本で、心臓への流入を増やすと、動脈の圧が同じでも心室がより多くを送り出すことを示した3)。細胞の中では、サルコメアが長いほどカルシウムに対する感受性が上がることなどが関わる。仕組みの詳細は収縮性のコースで扱い、ここでは心室全体の関係として読む。
容積を横軸にすると、ほぼ直線になる
前回の結合の式を思い出そう。EesとEa、V₀が変わらなければ、SVはEDVに比例して増える。
容積を横軸にしたStarling曲線は、傾きkの直線に近い。実際には、容積が増えるとEaも変わるため、緩やかに曲がる。心筋の設定と後負荷が同じなら、EDVが増えた分の一定の割合が、そのままSVの増加になる。Glowerらは、覚醒したイヌ(自律神経を遮断した状態)で一回仕事と拡張末期容積の関係がほぼ直線になることを示し、前負荷依存性の一回仕事(PRSW)として収縮の指標にした4)。図1はブタで、MRIの容積とカテーテルの圧から描いた例である。縦軸は一回仕事なので、この回のSV–EDVとは同じ量ではないが、容積を前負荷の指標にするとほぼ直線になる点は共通である。
図1:容積を横軸にしたStarling関係の実測例

麻酔下のブタで、大静脈の流れを絞りながら、リアルタイムMRIで容積を、カテーテルで圧を測った。dは負荷を変えたPVループ、eは一拍の仕事の推移、fは一回仕事(SW)と拡張末期容積(EDV)の関係で、緑は安静時、赤はドブタミン投与時。縦軸はSVではなくSWである。a〜cは撮像条件を検証した図。注1
圧を横軸にすると、曲がって平らになる
横軸を充満圧に変えると、話が変わる。第3回のEDPVRを使い、拡張末期圧P_edを容積に直してから、上の式に入れる。
充満圧が高いほど、同じ圧の上昇で増える容積が小さくなり、SVの増え方も小さくなる。この簡略な導出の仮定の範囲では、圧を横軸にしたStarling曲線が平らになる理由は、心筋の力の頭打ちではなく、拡張期の圧–容積関係の曲がりだけで説明できる。実際の循環では、後負荷、心膜、血液の分布なども同時に変わる(後の節)。心室が硬いほどβは大きく、曲線は早く平らになる。注2
予測:同じ充満圧の二つの心室
左室自由壁と中隔の受動張力の倍率を、0.75(柔らかい)、1.04(基準)、1.33(硬い)にした3条件を比べる。収縮の強さ、動脈、総血液量(4935 mL)はすべて同じである。
確認問題
平均左房圧がどちらも約11 mmHgの、柔らかい心室と硬い心室がある。収縮の強さと後負荷は同じとする。正しいものはどれか。
- 柔らかい心室のほうがEDVが大きく、SVも大きい
- 充満圧が同じなので、EDVもSVも同じ
- 硬い心室のほうがEDVが大きい
答えと解説
正解: 柔らかい心室のほうがEDVが大きく、SVも大きい
同じ圧でも、柔らかい心室にはより多くの血液が入る。容積が大きいぶん、SVも大きくなる。充満圧から容積を読むには、そのときの圧–容積関係を知る必要がある。
心室の柔らかさを変える
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インタラクティブ・シミュレーション. シナリオ 3件・グラフ 2件・出力 18件・操作 0件. グラフ 1. グラフ 2. EDV(前負荷の容積). EDV(前負荷の容積). EDV(前負荷の容積). LVEDP(経壁). LVEDP(経壁). LVEDP(経壁). 平均左房圧. 平均左房圧. 平均左房圧. SV. SV. SV. EF. EF. EF. 心拍出量. 心拍出量. 心拍出量実験では、3条件のPVループと、負荷を変えて得た拡張末期の点の並び(EDPVR)を比べよう。受動張力を上げるとEDPVRは上へ移り、同じ容積でも拡張末期の圧が高くなる。
総血液量が同じ4935 mLのとき、EDVは約145、144、142 mLとほとんど変わらなかった。一方、LVEDPは約8.6、10.9、13.1 mmHg、平均左房圧は約7.5、8.4、9.2 mmHgと、硬いほど高かった。SVは約81、80、79 mLで、差は2 mL弱しかない。前負荷(容積)はほぼ同じなのに、LVEDPは4.5 mmHg、平均左房圧は約1.7 mmHg違う。
図2:同じ心室の応答を、容積と充満圧の二つの軸で描く

各条件から総血液量を変え、それぞれ周期定常まで計算した点(左右の拍出量が一致しなかった最も多い総血液量の点は除いた)。大きな点は総血液量4935 mL(実験の条件)。A:拡張末期の経壁圧と容積。B:容積を横軸にしたStarling曲線。C:平均左房圧を横軸にしたStarling曲線。破線は平均左房圧約11 mmHg。注3
CircleHeart Standard74の保存状態と登録済み解析から作図
各条件から総血液量を変えてStarling曲線を描くと、容積を横軸にした図2Bでは3条件がほぼ一本の線に重なる。心筋の収縮と後負荷が同じなので、同じEDVからは同じSVが出る。充満圧を横軸にしたCでは3本が分かれる。平均左房圧が約11 mmHgのとき、柔らかい心室はEDV約173 mL・SV約94 mL、硬い心室はEDV約154 mL・SV約86 mLだった。同じ充満圧でも、前負荷とSVが違う。
冒頭の問いに戻ると、充満圧は前負荷そのものではない。前負荷を「拡張末期の心室の容積(心筋の伸び)」とすると、充満圧はそれを圧–容積関係を通して間接的に映したものである。心室の硬さ、心膜などの外からの圧、測る時相によって、同じ圧に対応する容積は変わる。
平らな部分は、心臓の限界か
図2Cでは、平均左房圧が15〜20 mmHgを超えるあたりから、SVがほとんど増えなくなる。このとき容積の軸(B)では、EDVが条件により約165〜185 mLで頭打ちになっている。
この範囲で主に効いているのは、心膜の拘束である。基準の系列で総血液量を5527、6208、7128 mLと増やすと、平均左房圧は約12.8、21.4、35.7 mmHgと大きく上がったが、心室の壁を広げる経壁の拡張末期圧は約19.9、22.7、25.8 mmHg、EDVは約168、172、177 mLしか増えなかった。上がった圧の大部分は、心膜の圧として心室の外側にかかっている。著者側で総血液量6500 mLの条件を計算すると、拡張末期の心膜の圧は約8 mmHgで、腔内で測ったLVEDP約32 mmHgに対し、経壁のLVEDPは約24 mmHgだった。EDPVRの曲がりに加えて、このモデルでは心膜の拘束が平らな部分の主な理由である。平らな部分は「心筋がこれ以上強く縮めない」ことではなく、「これ以上容積が増えない」ことを表している。このモデルのStarling曲線には、明らかな下降脚は現れない(最も充満した範囲でSVが1 mL未満わずかに下がる程度である)。注4
臨床の充満圧を読むとき
充満圧は、前負荷の手がかりにはなるが、前負荷の値ではない。CVPは右心側の、楔入圧は左房の圧をそれぞれ反映し、同じ患者でも別の動きをすることがある(第7回)。輸液でSVが増えるかどうかを知りたいときは、静的な圧の値よりも、下肢の受動的挙上などで短時間だけ前負荷を変えて、その応答を見る方法が勧められている6)。
ただし、輸液でSVが増えるかどうかは、心臓の曲線のどこにいるかだけでは決まらない。入れた血液がどれだけ心臓へ戻り、EDVを増やすかは、血管側の性質で決まる。次回は、この血管側の関係を加えて、心拍出量と充満圧がどこに落ち着くかを考える。
確認
確認問題
収縮の強さと後負荷が同じ二つの心室で、容積を横軸にしたStarling曲線は重なり、充満圧を横軸にした曲線は分かれた。最も考えやすい違いはどれか。
- 拡張期の圧–容積関係(硬さ)の違い
- ESPVRの傾きの違い
- 動脈の抵抗の違い
答えと解説
正解: 拡張期の圧–容積関係(硬さ)の違い
容積からSVへの関係は同じで、圧から容積への関係だけが違う。
確認問題
充満圧を横軸にしたStarling曲線が平らになった。このモデルの結果から言えることはどれか。
- 拡張末期容積がほとんど増えなくなっている
- 心筋の収縮力が急に低下している
- EDPVRが下へ移り、心室が柔らかくなった
答えと解説
正解: 拡張末期容積がほとんど増えなくなっている
心膜の拘束やEDPVRの急な部分のために、圧が上がっても容積が増えにくくなる。心筋の収縮力や心室の硬さそのものが変わったわけではない。
確認問題
CVPが高い患者で、輸液の効果を判断したい。最も適切な考え方はどれか。
- CVPの値だけでは前負荷もSVの応答も決まらないので、前負荷を短時間変えたときの応答などで判断する
- CVPが高ければ前負荷は十分なので、輸液でSVは増えない
- CVPが低ければ、必ず輸液でSVが増える
答えと解説
正解: CVPの値だけでは前負荷もSVの応答も決まらないので、前負荷を短時間変えたときの応答などで判断する
充満圧と容積の対応は心室の硬さや外からの圧で変わり、SVの応答は心臓と血管の両方で決まる。
注釈
- 注1実測図の条件↩
原著は8頭の麻酔下ブタを対象とした学会抄録である。ドブタミン投与時には心拍数も変わる。図fは一回仕事と拡張末期容積の関係(PRSWの解析)で、SVとEDVの関係そのものではない。線は測定点への回帰である。
- 注2式の前提↩
導出では、直線のESPVR、一定のEaとV₀、指数関数のEDPVRを仮定した。閉じた循環で総血液量を変えると、動脈圧やEa、心膜の圧も変わるため、実験の曲線はこの式どおりにはならない。式は、圧を横軸にすると曲線が平らになる理由を分けて考えるために使う。
- 注3モデルの負荷系列↩
各条件の周期定常から冠循環のトーンを固定し、総血液量を約2400 mLから条件により約6900〜7800 mLまでの12段階に変え、それぞれを周期定常まで計算した。最も多い総血液量の点のなかには左右の心拍出量が一致せず周期定常に達していないものがあり、図から除いた。実験のPVループの表示には含まれることがある。拡張末期は一拍の中で容積が最大になる時点(登録済み解析の定義。第1回の僧帽弁閉鎖時とほぼ同じ値)で、縦軸は経壁圧である。平均左房圧は一周期の平均で、楔入圧と同じ量ではない。
総血液量の変化は、臨床の輸液と同じ操作ではない。モデルには血管外への水分の移動、反射、腎臓による調節がなく、入れた血液はすべて血管内にとどまる。受動張力の倍率は壁の材料則の倍率で、EDPVRの式のβそのものではない。
- 注4心膜の圧と経壁圧↩
経壁圧は、心室の内腔の圧から心室の外側の圧(このモデルでは心膜と胸腔の圧)を引いた値である。基準状態では心膜の圧は0 mmHgで、腔内圧と経壁圧は一致する。総血液量6500 mLの条件では拡張末期の心膜の圧が約8.1 mmHg(一拍の中で変動する)となり、腔内のLVEDP約31.7 mmHgと経壁のLVEDP約23.5 mmHgの差はこれにあたる。心膜の拘束は拡張能のコースで詳しく扱う。
文献
- Pulmonary artery occlusion pressure and central venous pressure fail to predict ventricular filling volume, cardiac performance, or the response to volume infusion in normal subjects Kumar A, Anel R, Bunnell E, et al. Crit Care Med. 2004;32(3):691–699.↩
- Cardiac filling pressures are not appropriate to predict hemodynamic response to volume challenge Osman D, Ridel C, Ray P, et al. Crit Care Med. 2007;35(1):64–68.↩
- On the mechanical factors which determine the output of the ventricles Patterson SW, Starling EH. J Physiol. 1914;48(5):357–379.↩
- Linearity of the Frank-Starling relationship in the intact heart: the concept of preload recruitable stroke work Glower DD, Spratt JA, Snow ND, et al. Circulation. 1985;71(5):994–1009.↩
- The Frank-Starling relationship of the heart revealed in a large animal study utilizing real-time undersampled radial MRI at variable inotropic state and heart rate Witschey W, Contijoch F, McGarvey J, et al. J Cardiovasc Magn Reson. 2014;16(Suppl 1):P57.↩
- Prediction of fluid responsiveness: an update Monnet X, Marik PE, Teboul JL. Ann Intensive Care. 2016;6:111.↩