一拍を読む――圧・容積・流量は、同じ一拍のどこを示すか
公開
目次
カテーテル検査で記録する左室圧と大動脈圧、心エコーで見る僧帽弁の流入、画像で測る左室の容積。臨床ではこれらを別々の検査で、別々の時刻に測る。けれども、どれも同じ一拍の一部を切り取ったものである。値が食い違って見えるとき、まず確かめるのは、それが一拍の中の「いつ」の「どこ」の値かということだ。
この回では、左心の一拍を圧・容積・流量の三つの座標で並べて読む。読み終えたら、三つのことができるようになる。弁の開閉を圧の大小と流れの始まり・終わりから特定し、四つの相をPVループと時間波形の両方で指せる。容積の変化を流入と流出の差として読み、SV・EF・COを弁の事象から定義できる。同じ一拍が繰り返す「周期定常」の意味と、このコースで条件を比べるときの約束を説明できる。
弁は圧の大小で開き、流れで確かめる
正常な弁は、上流の圧が下流の圧を上回ると開いて血液を通し、流れが逆向きになろうとすると閉じる。左室の一拍は、僧帽弁と大動脈弁の開閉によって四つの相に分かれる。
心房の収縮による流入が終わると、僧帽弁が閉じる(①)。左室が収縮して圧が上がっても、大動脈圧に届くまでは両方の弁が閉じたままで、容積は変わらない。これが等容収縮期である。左室圧が大動脈圧を超えると大動脈弁が開き(②)、駆出が始まる。
駆出が終わると大動脈弁が閉じ(③)、両方の弁が閉じたまま圧が下がる等容弛緩期に入る。左室圧が左房圧を下回ると僧帽弁が開き(④)、充満が始まる。充満は、左室の圧が下がることで生じる早い流入と、心房の収縮による遅い流入からなる。
図1は、この四つの事象を左室の圧–容積平面に置いたものである。横軸を容積、縦軸を圧として同じ時刻の二つの値を一点とし、一拍分をつなぐとループになる。点は反時計回りに進む。①は拡張末期、③は収縮末期にあたり、この二点の容積を拡張末期容積EDV、収縮末期容積ESVと呼ぶ。注1
図1:弁の事象と四つの相を、左室の圧–容積平面に置く

基準状態(心拍数70/分)の一拍。①僧帽弁閉鎖、②大動脈弁開放、③大動脈弁閉鎖、④僧帽弁開放。縦の二辺が等容期、上の辺が駆出、下の辺が充満にあたる。黒点は20 msごとの位置で、点の間隔が広い区間ほど容積が速く変わっている。注2
CircleHeart Standard74の基準状態の計算値から作図
ループの横向きの速さは、流量を表す
左室に入る僧帽弁の流量をQ_MV、出ていく大動脈弁の流量をQ_AoVとすると、左室の容積Vの変化は流入と流出の差で決まる。
等容期には両方の流量がゼロなので、点は縦にしか動かない。駆出中は流入がないため、容積が減る速さがそのまま大動脈弁の流量になる。図1で黒点の間隔が駆出の初めに広く、終わりに狭いのは、流量が駆出の初めに大きく、後半に小さくなることを示している。
予測:流れが最大になるのは、圧が最大のときか
駆出中の左室圧と大動脈弁の流量は、どちらも山の形をとる。二つの山の頂点は同じ時刻にくるだろうか。答えを選んでから、下の実験で流量の波形と圧の波形を見比べよう。
確認問題
大動脈弁の流量が最大になる時刻と、左室圧が最大になる時刻の関係はどれか。
- 流量のピークが先にくる
- ほぼ同時にくる
- 左室圧のピークが先にくる
答えと解説
正解: 流量のピークが先にくる
このモデルでは、流量を決める主な要因は弁をはさむ圧の差で、圧の高さそのものではない(生体では血液の慣性も寄与する)。圧の差は駆出の初めに最も大きく、その後は大動脈に血液がたまって大動脈圧が追いつくため縮んでいく。
インタラクティブ・シミュレーション
一拍を読む:同じ時刻の圧・容積・流量
シナリオ 1件・グラフ 3件・出力 6件・操作 0件
- グラフ 1
- グラフ 2
- グラフ 3
- 拡張末期容積 EDV(僧帽弁閉鎖時)
- 収縮末期容積 ESV(大動脈弁閉鎖時)
- 一回拍出量 SV
- 駆出率 EF
- 心拍出量 CO(大動脈弁の正味流量)
- 平均左房圧
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
実験では、図1と同じ基準状態の一拍が繰り返し再生される。流量の波形で大動脈弁の山が立ち上がると、頂点はすぐに訪れ、その後はなだらかに下がる。圧の波形では、そのあいだも左室圧と大動脈圧がそろって上がり続ける。圧・容積・流量を同じ時間軸に並べる図は、Wiggers図として古くから心周期の教育に使われてきた1)。図2に、同じ一拍を時間軸に開いて示した。
図2:同じ一拍を、圧・容積・流量の時間波形で読む

上段は左室・大動脈・左房の内腔圧、中段は左室容積、下段は大動脈弁と僧帽弁の流量。縦の破線①〜④は図1と同じ事象を示す。大動脈弁の流量は開放から約36 msで最大になり、左室圧の最大はそれより約150 ms遅い。左房圧のa・v、僧帽弁流量のE・Aは後の節で説明する。注2
CircleHeart Standard74の基準状態の計算値から作図
このモデルでは、大動脈弁が開いてから約36 msで流量が最大(約465 mL/s)になり、左室圧の最大(約114 mmHg)はそれより約150 ms遅れる。流量が最大の時刻に、左室圧は大動脈圧を約8 mmHg上回っていた。駆出の初めは左室の圧が速く上がり、大動脈側の圧の上昇が追いつかないため、弁をはさむ圧の差が最も大きくなる。送り出された血液が大動脈にたまるにつれて大動脈圧が上がり、差が縮んで流量は減る。そのあいだも二つの圧はそろって上がり続ける。
大きく流れているときに圧も高いとは限らない。圧の高さは血液をためている側の状態を表し、流れは圧の差で決まる。この区別は、次回の弁と、第4回の動脈の負荷を読むときの土台になる。注3
幅、割合、一分間の流量
一回拍出量SVは、ループの横幅にあたる。弁に逆流がなければ、拡張末期と収縮末期の容積の差で求められる。駆出率EFは入っていた血液のうち送り出した割合、心拍出量COは一分間に送り出す量である。
基準状態ではEDVが約144 mL、ESVが約64 mLで、SVは約80 mL、EFは約56%になる。心拍数HRが70回/分なので、COは約5.6 L/分である。EDVが200 mL、ESVが120 mLの心室でもSVは同じ80 mLだが、EFは40%になる。SVは量、EFは割合を表すので、二つを組にすると、同じ量を送り出している心室を、中に入っている容積まで含めて区別できる。注4
ループが囲む面積は、一拍のあいだに左室が血液へ渡した外的な仕事、一回仕事SWにあたる。同じSVでも、高い圧で駆出するループほど面積が大きい。
基準状態のSWは約1.08 J(約8,100 mmHg・mL)である。一つのループからは、その拍の容積と仕事が読める。一方、収縮の強さや硬さといった心室そのものの性質を調べるには、負荷を変えた複数のループが要る。圧と容積の関係から心室の性質を読むこの見方は、イヌの心臓(摘出心を含む)を用いた実験で、時変エラスタンスとして体系化された2)。第3回で扱う。
左房圧のaとv、僧帽弁流量のEとA
左房圧の波形には、名前のついた二つの山がある。心房が収縮するときのa波と、心室の収縮中に僧帽弁が閉じたまま肺静脈から血液を受け、左房圧が上がっていくv波である。僧帽弁の流入にも二つの山がある。左室圧が下がって左房との間に圧の差ができる早期のE波と、心房の収縮によるA波である。図2の上段と下段で、aとA、vと④の位置を確かめよう。この基準状態ではA波がE波よりわずかに大きく(体積流量の比で約0.94)、左房のv波もa波より小さい。多くの成人ではE波がA波より大きいので、形の読み方の練習として使い、正常値の再現とはみなさない。注5
平均左房圧と左室拡張末期圧(LVEDP)は別の量である。平均左房圧は一周期の平均で、LVEDPは拡張末期という一時点の左室圧を表す。基準状態では平均左房圧が約8.4 mmHg、僧帽弁閉鎖時の左室圧が約10.9 mmHgだった。心房の収縮が拡張の最後に左室の圧を押し上げるため、この一時点の値は平均より高くなる。楔入圧やLVEDPを比べるときは、どの時相の値かをそろえる。注6
心エコーのパルスドプラ法は、僧帽弁の弁尖の先端に置いた一点で血流の速さを測る3)。モデルの流量は、弁を通る血液の体積の速さである。二つの比E/Aが一致するのは、E波とA波の時刻で有効な弁口の面積が同じで、流速の分布と測る位置も同じとみなせるときに限られる。このコースでは、モデルのE/Aを「体積流量の比」と呼んで区別する。
同じ一拍が繰り返すということ
条件を変えずに待つと、圧・容積・流量は毎拍同じ形を繰り返すようになる。この状態を周期定常と呼ぶ。一周期Tの後に左室の容積は元に戻るので、その周期に弁を通って入った量と出た量は等しい。
心臓と血管は一続きの閉じた回路である。周期定常では、どの区画にも血液がたまり続けないので、右心から出る平均の流量と左心から出る平均の流量もそろう。一拍の中では左右の流れは同時に起きず、時刻ごとの差は、血液が区画のあいだを一時的に移動していることを表す。注7
このコースでは、条件を変えた直後の変化や、次の状態へ移る速さは扱わない。比べるのは、それぞれの条件で周期定常に達した一拍どうしである。一つの条件を変えると、他の圧や容積もそれに応じた新しい値に落ち着く。比較ごとに、どの量を固定し、どの量が自由に動いたのかを確かめて読む。
確認
確認問題
PVループで、点が縦にだけ動く区間について正しいものはどれか。
- 両方の弁が閉じていて、左室の容積が変わらない
- 大動脈弁が開いていて、圧を上げながら駆出している
- 僧帽弁から流入しているが、流量が小さい
答えと解説
正解: 両方の弁が閉じていて、左室の容積が変わらない
dV/dt=Q_MV−Q_AoVで、両方の流量がゼロなら容積は変わらない。等容収縮期と等容弛緩期がこれにあたる。
確認問題
EDV 120 mL・ESV 40 mLの心室と、EDV 180 mL・ESV 100 mLの心室を比べる。正しいものはどれか。
- SVは同じで、EFは前者が高い
- EFが同じなので、SVも同じである
- SVもEFも後者が大きい
答えと解説
正解: SVは同じで、EFは前者が高い
SVはどちらも80 mL。EFは前者が約67%、後者が約44%になる。
確認問題
基準状態で平均左房圧(約8.4 mmHg)がLVEDP(約10.9 mmHg)より低い理由として適切なものはどれか。
- 平均左房圧は一周期の平均で、LVEDPは心房の収縮後の一時点の圧だから
- 左房と左室は常に同じ圧になるはずで、差は計算の誤差だから
- 左房圧は経壁圧、LVEDPは内腔圧で、圧の基準が違うから
答えと解説
正解: 平均左房圧は一周期の平均で、LVEDPは心房の収縮後の一時点の圧だから
平均は一周期全体の値、LVEDPは心房の収縮で押し上げられた拡張の最後の値である。この基準状態では心外圧が0 mmHgなので、経壁圧と内腔圧の違いは生じない。
注釈
- 注1弁の事象の定義↩
弁の開閉を圧の大小だけで説明するのは、理想化した弁の見方である。このモデルでは、弁尖の開き具合が圧の差に応じて短い時間遅れで変わり、流量は弁をはさむ圧の差と開き具合から決まる。記事と実験では、弁の事象を前向きの流れの始まりと終わりで定義し、EDVを僧帽弁閉鎖時、ESVを大動脈弁閉鎖時の容積とする。これらは弁尖の動きや心音を直接示すものではない。
基準状態では、左室容積が最小になる時刻は大動脈弁閉鎖のわずか前で、両者の容積はほぼ等しい。弁に逆流があると、最小容積と弁の事象での容積がずれる。この違いは次回で扱う。
図1・図2は、本文の実験と同じStandard74の基準状態(心拍数70/分、総血液量4935 mL)を2 ms間隔で出力した時系列から作図した。平滑化は行っていない。表示範囲は連続する二つの僧帽弁閉鎖の間とした。弁の事象の時刻は流量の符号の変わり目から求め、その時刻の圧と容積を線形補間で示した。
この条件では心外圧が0 mmHgのため、PVの縦軸(経壁圧)と圧波形(内腔圧)は同じ値を示す。心外圧が0でない条件では、PVには経壁圧、圧波形には内腔圧を用いる。
- 注3血液の慣性とモデルの近似↩
イヌの実験では、駆出の後半(おおよそ後半の5〜7割)に大動脈圧が左室圧を5〜20 mmHg上回っても、血液の慣性によって流出が続くことが示されている4)。このモデルの弁には慣性の項がないため、大動脈弁の前向きの流れは、左室圧が弁の下流の圧を上回る区間に限られる。本文の「流量は圧の差で決まる」という説明は、この近似の範囲で述べている。
- 注4数値の出典と読み方↩
数値は、本文の実験に保存したStandard74基準状態の計算値を丸めたものである。臨床の測定と比べると、このモデルの左室容積は大きめである。本コースでは絶対値よりも、条件どうしの差と関係を読む。
COは大動脈弁を通る正味の流量から求めた。SVをEDV−ESVで求める方法と、弁を通る流量を積分する方法は、逆流がなければ一致する。
- 注5基準状態の波形の形↩
この基準状態の僧帽弁流入は、体積流量でE波約393 mL/s、A波約419 mL/sで、左房圧のv波(約10.2 mmHg)はa波(約13.1 mmHg)より低い。大動脈弁の流量が開放から約36 msで最大になるなどの時刻の値も、このモデルのものであり、ヒトの測定値と一致するとは限らない。流量のピークが圧のピークより先に来るという順序は、このモデルでも実際の心臓でも同じである。
- 注6臨床の計測とモデルの出力↩
肺動脈楔入圧は、肺の毛細血管床を介して左房の平均圧を間接的に反映する5)。呼吸で胸腔の圧が変わるため、呼気終末で読むと左室拡張末期圧とよく一致し、機器が自動で出す平均値を使うと過小評価しやすいことが示されている6)。モデルの平均左房圧は、左房の圧を直接一周期で平均したもので、呼吸による変動は含まない。
臨床のLVEDPは、心房収縮の後、左室の収縮が始まる直前の点で読む。このモデルでは、僧帽弁の前向きの流れが止まる時点の左室圧をLVEDPとした。
心エコーやMRIの容積は、画像で心内腔の境界を決めて測る。モデルの容積は一つの区画として計算した値である。熱希釈法やFick法で測るCOは、右心や全身の平均流量に対応する。モデルのCOは大動脈弁の正味流量から求めている。
- 注7周期定常と左右の流量↩
本コースの実験は、条件ごとに十分な時間計算した状態を保存し、再生して拍ごとの値がほとんど変わらないことを確かめてから用いている。保存や再生そのものが周期定常の証明になるわけではない。
左右の平均流量が一致するのは、同じ周期で平均した正味の流量についてである。冠循環のように大動脈から出て右房へ戻る経路があると、比べる流量の選び方で値がわずかに異なる。弁に逆流があるときは、前向きの流量と正味の流量を区別する。
文献
- Expanding application of the Wiggers diagram to teach cardiovascular physiology Mitchell JR, Wang JJ. Adv Physiol Educ. 2014;38(2):170–175.↩
- Instantaneous Pressure-Volume Relationships and Their Ratio in the Excised, Supported Canine Left Ventricle Suga H, Sagawa K. Circ Res. 1974;35(1):117–126.↩
- Evaluation of diastolic filling of left ventricle in health and disease: Doppler echocardiography is the clinician's Rosetta Stone Nishimura RA, Tajik AJ. J Am Coll Cardiol. 1997;30(1):8–18.↩
- The contribution of blood momentum to left ventricular ejection in the dog Noble MI. Circ Res. 1968;23(5):663–670.↩
- Hemodynamics in the cardiac catheterization laboratory of the 21st century Nishimura RA, Carabello BA. Circulation. 2012;125(17):2138–2150.↩
- Current practice for determining pulmonary capillary wedge pressure predisposes to serious errors in the classification of patients with pulmonary hypertension Ryan JJ, Rich JD, Thiruvoipati T, et al. Am Heart J. 2012;163(4):589–594.↩