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血圧はどうやって決まるのか——「上が92」では、まだ何もわからない
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同じ「上が92」でも、92/70と92/40では循環の見え方が違います。この記事では、平均血圧・脈圧・心拍数を分けて読み、どの要素が血圧波形を動かしたのかを3つのシミュレーションで確かめます。読み終えるころには、血圧を1つの数字でなく、流れと1拍の両面から説明できるようになります。
「上が92」の2人
当直の夜、5分差で2件のコールが鳴ります。「301号室、血圧92/70です」「308号室、血圧92/40です」。上の数字はどちらも92。この2人は同じ状態でしょうか。
同じとは限りません。92/70は脈圧が狭く、1拍で送り出す量が少ないパターンを疑わせます。92/40は拡張期圧が低く、血管拡張や徐脈を疑わせます。血圧だけで診断はできませんが、2つの数字の組み合わせは、次に見るべきものを変えます。
モニターは3つの数字を出している
血圧の式として最初に習うのは、平均血圧が心拍出量と体血管抵抗の積で決まるという関係です。正しい入口ですが、モニターに並ぶ収縮期・拡張期・平均のうち、この式が直接説明するのは平均だけです。
血圧を「流れ」と「拍」に分けて考えます。流れの成分は、血液が血管網を流れ続けることで生まれる平均血圧で、COとSVRが決めます。拍の成分は、1拍ごとの投げ込みで生じる圧の振れ幅、つまり脈圧です。1回拍出量と、それを受け止める動脈の性質が効きます。
もう一歩:平均血圧の概算とNIBP
平均血圧が表示されない場面では、MAP ≈ DBP + PP/3 と概算できます。92/70なら約77、92/40なら約57です。実際の波形の時間平均とは数mmHgずれることがあります。
オシロメトリックNIBPは平均血圧を比較的直接に捉え、収縮期・拡張期を推定します。表示された3値は、同じ確かさで測られているわけではありません。
動かして確かめる①:蛇口を絞る
体血管抵抗は末梢血管がどれだけ流れにくいかを表します。まず答えを予想し、その後、介入シナリオのボタンを「高い」にしてください。青い基準シナリオは動かないので、同じ波形内で比較できます。
確認問題
体血管抵抗を上げると、脈圧はどうなるでしょうか?
- 大きく開く
- 大きく狭まる
- ほぼ変わらない
答えと解説
正解: ほぼ変わらない
体血管抵抗の一次効果は、収縮期と拡張期をともに動かし、波形全体の位置を変える方向に現れます。実際の変化量は、続くシミュレーションで確かめてください。
インタラクティブ・シミュレーション
蛇口を絞る:体血管抵抗
シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 10件・操作 1件
- グラフ 1
- 基準 · 収縮期血圧
- 基準 · 拡張期血圧
- 基準 · 平均血圧
- 基準 · 脈圧
- 基準 · 心拍出量
- 抵抗↑ · 収縮期血圧
- 抵抗↑ · 拡張期血圧
- 抵抗↑ · 平均血圧
- 抵抗↑ · 脈圧
- 抵抗↑ · 心拍出量
- 体血管抵抗
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
30秒後の実測は、基準109/80(MAP 88、脈圧29)に対し、抵抗上昇後121/90(MAP 100、脈圧31)でした。収縮期と拡張期がともに上がり、主に目盛りの位置が動いています。
ただし右辺のCOは固定ではありません。心拍出量は5.44から5.21 L/minへ少し下がりました。閉ループの循環では、抵抗だけを動かしても後負荷を介してポンプ側へ影響が戻ります。MAP ≈ CO×SVRは、独立した2つのつまみの単純な掛け算ではありません。
発展:今度は「低い」を試す
介入シナリオを「低い」にすると、血管拡張側を探索できます。どの値が先に下がるか、平均血圧と脈圧を分けて観察してください。これは敗血症や麻酔薬の理解への入口ですが、患者の診断を再現するものではありません。
動かして確かめる②:タンクを硬くする
動脈は弾性のタンクとして、収縮期に拍出を受け止め、拡張期に末梢へ払い出します。これはWindkessel機能です。介入シナリオの「硬い」を選び、基準との波形の幅と輪郭を見比べてください。
確認問題
動脈を硬くしたとき、この実験で最も特徴的な変化はどれでしょうか?
- 波形全体が同じ幅で上へ移動する
- 脈圧が開く
- 心拍出量だけが変わる
答えと解説
正解: 脈圧が開く
硬い動脈は、1拍の拍出を同じようには受け止められません。収縮期と拡張期の差に注目して、変化量をシミュレーションで確かめてください。
インタラクティブ・シミュレーション
タンクを硬くする:動脈スティフネス
シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 12件・操作 1件
- グラフ 1
- 基準 · 収縮期血圧
- 基準 · 拡張期血圧
- 基準 · 平均血圧
- 基準 · 脈圧
- 基準 · 1回拍出量
- 基準 · 心拍出量
- 硬い · 収縮期血圧
- 硬い · 拡張期血圧
- 硬い · 平均血圧
- 硬い · 脈圧
- 硬い · 1回拍出量
- 硬い · 心拍出量
- 動脈スティフネス
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
30秒後、基準109/80(脈圧29)に対し、硬いシナリオは117/83(脈圧34)でした。拍出の受け止め方が変わり、収縮期側の上昇が拡張期側より大きくなっています。
一方、MAPは88から94 mmHg、1回拍出量は90.7から95.9 mL、COは5.44から5.75 L/minへ動きました。ここを「平均は必ず不変」と丸暗記しないでください。スティフネスの一次効果は脈圧に現れますが、閉ループの定常状態では充満や拍出も再配分されます。
臨床での読み方:孤立性収縮期高血圧まで飛躍しすぎない
加齢では動脈スティフネスだけでなく、波反射、SVR、腎・自律神経系も同時に変わります。この実験は「硬さが脈圧を広げうる」という機序を分離して見るためのものです。患者の160/60を、この1つのcontrolだけで説明するのは無理があります。
動かして確かめる③:拍の間隔を延ばす
最後は、心拍数70 /minと40 /minを並べます。今度は流れと拍の両方が動く応用問題です。まず予想し、波形の拍間隔、拡張期圧、1回拍出量、心拍出量を順に見てください。
確認問題
心拍数を70から40 /minへ落とすと、拡張期血圧はどうなるでしょうか?
- 上がる
- 下がる
- ほぼ変わらない
答えと解説
正解: 下がる
徐脈では次の拍までの払い出し時間が長くなります。拡張期の波形がどこまで下がるかを、心拍出量と一緒に観察してください。
インタラクティブ・シミュレーション
拍の間隔を延ばす:心拍数
シナリオ 2件・グラフ 1件・出力 12件・操作 1件
- グラフ 1
- 70 · 心拍数
- 70 · 収縮期血圧
- 70 · 拡張期血圧
- 70 · 平均血圧
- 70 · 1回拍出量
- 70 · 心拍出量
- 40 · 心拍数
- 40 · 収縮期血圧
- 40 · 拡張期血圧
- 40 · 平均血圧
- 40 · 1回拍出量
- 40 · 心拍出量
- 心拍数
シミュレーションを操作するにはJavaScriptを有効にしてください。
36秒時点の実測では、70 /minで110/83(MAP 91)、40 /minで97/64(MAP 73)でした。拡張期が長くなり、次の拍までに動脈圧がより低くなります。
同時に1回拍出量は80.4から108.4 mLへ増え、拍数低下を部分的に補います。それでもCOは5.63から4.34 L/minへ低下しました。心拍数を約43%下げてもCO低下が約23%にとどまるのは、1拍あたりの充満と拍出が増えるからです。
2人の「92」を読み解く
301号室の92/70は脈圧22で狭く、1回拍出量が少ないパターンを疑わせます。出血、ポンプ不全、心タンポナーデなど、原因は複数です。少なくとも「上が92」だけより、次に脈の太さ、頸静脈、エコー、末梢灌流を見る理由が明確になります。
308号室の92/40は脈圧52で、拡張期圧が低いパターンです。急性なら血管拡張を考えますが、徐脈でも似た方向へ動くため、心拍数を必ず同時に見ます。概算MAPは約57で、92/70の約77より低い。臓器灌流の切迫度を考えるうえで、この差は重要です。
確認問題
血圧92/40、心拍数38 /min。最初の読み方として最も適切なのはどれでしょうか?
- 収縮期血圧が92なので、2つの数字は気にせず経過を見る
- 低い拡張期圧と徐脈を一緒に評価する
- 脈圧が広いので、循環は保たれていると判断する
答えと解説
正解: 低い拡張期圧と徐脈を一緒に評価する
拡張期が長い徐脈では、次の拍までに動脈圧がより低くなります。ただし、血管拡張など別の原因もありうるため、血圧だけで診断せず、心拍数、波形、末梢灌流を合わせて評価します。
このシミュレーションの限界
このモデルでは圧受容体反射を含まず、心拍数や血管トーヌスは自動調節されません。そのため1つの介入の純粋な方向を見やすい一方、実患者の代償反応は再現しません。
動脈スティフネスcontrolはモデル内の動脈系へ広く作用します。また、シミュレーションの数値は教育用であり、個別患者の治療閾値や予後を示しません。
動いた成分が、動いた場所を教える
血圧は1つの数字ではありません。平均血圧は主に流れ(CO×SVR)を映し、脈圧は1拍の量と動脈の受け止め方を映します。ただし閉ループでは互いに連動します。報告を「上が92」で止めず、収縮期・拡張期・平均、心拍数、末梢灌流を一緒に伝えてください。
では、流れの上流にある心拍出量はどこから来るのでしょうか。次の記事では、循環の見えにくい半分である静脈側と、輸液反応を扱います。
次に読む:輸液で血圧が上がるのはなぜか前負荷、静脈還流、Starling曲線から輸液反応を読み解きます。